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インバウンドセミナー

訪日旅行者とこれからのインバウンド観光の変化

訪日ゲストの変化とこれからのインバウンド市場

株式会社LIFE PEPPER 執行役員
高橋 佑輔 氏

「戦略性のないプロモーション」は不要

 弊社は2014年に現役大学生(帰国子女)メンバーを中心に設立した海外向けマーケティング専門のスタートアップだ。訪日外国人の街頭アンケート調査から活動をスタートし、現在ではインバウンド支援のほかに、海外進出支援や海外市場向けのデジタルコミュニケーション支援なども手がけている。インバウンド支援では、全世界の日本好き外国人と作り上げるインバウンド戦略「インバウンドファンクラブ」をコア戦略(中長期戦略)に掲げ、「価値を発掘(リサーチ)」「価値を伝える(コンテンツ/受入環境整備)」「価値を広げる(プロモーション)」の3つの軸でソリューションを提供。「ターゲットが明確」「訪日ゲスト向け訴求軸(コミュニケーション)が明確」の2つの要素を満たす方向を目指すのが、弊社のインバウンド戦略の基本的な考え方となる(詳細後述)。
 今回のセミナーでは「インバウンド戦略をリアルに感じていただく」という趣旨で話を進めたい。まず「アフターコロナのインバウンド対策で最初は絶対にやめたほうがいいこと」について強調しておきたい。それはメディア、インフルエンサー、空港看板といった「戦略性のないプロモーション」だ。インバウンド対策で最初にすべきなのは、こうしたターゲットや戦略が不明確なままの無意味なプロモーションではなく、「インバウンド施策のゴール設定」だ。メーカーであれば、インバウンド施策のゴールが「日本で買ってもらうこと」か、それとも「母国で買ってもらうこと」か、「会社全体の方針」として最初に明確にしておきたい。


訪日ゲストの買い物ポテンシャルチェック

 「訪日ゲストが日本で買い物する理由」は、①観光的気分、②内外価格差(含む為替差額)、③商売目的、④希少価値、⑤ 生物的欲求、の大きく5つに分類できる。
 ①は、JapanTシャツや提灯、北海道の有名銘菓、有名カフェチェーンのタンブラーといった自分用の旅行の記念品だ。②は、母国で買っている、まわりが買っていて頼まれたりするもので、典型例が医薬品だ。③は、商売目的でソーシャルバイヤーが日本で買って販売するというもので、医薬品のほかに、高額ブランド品や秋葉原のアニメグッズなどが挙げられる。④は、母国やECでは買えない、日本でしか買えないようなもので、かっぱ橋道具街のような問屋街に行く、コレクターから買うというケース。⑤ は、渇きや空腹を満たす、旅行中に消費するというもので、「ほろ酔い」消費や、コンビニ、デパ地下、ドラッグストア、免税外消費などだ。
 ターゲットを理解して明確にするためには、この①~⑤ に該当するかを調査する必要がある。メーカーを前提に簡単に調べるポイント・方法(訪日ゲストの買い物ポテンシャルチェック)をお伝えしよう。ポイントは3つある。
 一つ目は、「母国での価値の確認」だ。訪日ゲストの母国での販売状況・知名度・露出状況のチェックのほかに、自社内の海外担当や現地支社と連携して情報収集する。要は「ターゲットとしたい訪日ゲストの国の消費者目線ではどういったふうに見られているのか」という視点で価値を確認する。
 二つ目は、「日本での販売店や販路との連携」だ。「日本のどの地域の小売店の棚が厚いのか、連携が強いのか」「訪日ゲストが特に訪れる地域での販売がされているか」をチェックする。現状では、訪日ゲストが一般的な動線から外れる場所で買い物をすることは考えにくいため、「どの地域に商品が置いてあるのか」のチェックは欠かせない。
 三つ目は、「世界価格」だ。自社商品について、世界中のECでの販売価格を調査する。
 これらについては、「フレームワーク」化した弊社のツールで情報整理が可能だ。ただ、これは独自のプラットフォームを有する中国と韓国では使用できない。


インバウンド戦略のマトリクス整理とフレームワーク

 上記の3つの「訪日ゲストの買い物ポテンシャルチェック」の前に、自社のインバウンド戦略の整理が必要だ。弊社では2×2マトリクスを使って戦略を整理している。
 最も重要なのは「立地条件」だ。大阪の心斎橋やなんば、福岡市、東京、那覇、札幌といった訪日ゲストがよく訪れる好立地に店舗があり、商品が売られているか。もう一つは「全社の意思決定」だ。訪日ゲストに向かってビジネスをする、日本以外のマーケットでシェアを取るという全社の意思決定があるのか、ないのか。最悪なのは「好立地以外の立地」で「全社の意思決定がない」パターンだ。インバウンドは新規事業であることが多いため、全社合意は欠かせない。
 では、「全社の意思決定がある」が「好立地以外の立地」のパターンはどうだろうか。このようなケースで相談があった場合には、「本当にインバウンドに取り組む必要があるか?」を確認した上で、「どんな勝ち筋が存在しているか」の仮説を一緒に考えてお伝えすることが多い。「このマーケットであれば、まずは日本人のお客様に買っていただく方がよい」といった率直な話もさせていただく。
 インバウンド戦略の成功確率が高いのは、「好立地」で「全社の意思決定がある」パターンと、「好立地」だが「全社の意思決定がない」パターンだ。
 インバウンド戦略でもう一つ重要なのは、冒頭でも触れた「ターゲットが明確/不明確」「訪日ゲスト向け訴求軸(コミュニケーション)が明確/不明確」という2×2マトリクス整理だ。「ターゲットが明確」で「訪日ゲスト向け訴求軸が明確」のパターンが最も成功確率が高い。しかし実際には、「訪日ゲスト向け訴求軸が不明確」、つまり「訪日ゲストとどうやってコミュニケーションをすればいいか仮説がない」というパターンが多い。やみくもにインフルエンサーにアプローチしようとするのはこうしたケースだ。
 弊社では各パターンに応じたさまざまなソリューションを提供している。売上や利益を突き詰めれば、「1件お買い上げいただくのに何円の投資が必要か」に行き着く。そこから逆算して打ち手を展開するツールも揃えている。「内製化」も見据えて、弊社のソリューションやツールをご活用いただきたい。


日本好き外国人にアプローチする「ファンエコノミクス サイクル」

 ここまで説明したことは、弊社が考えるインバウンド戦略の本質・常道だが、最短ルートで本質を得ることができる「裏技=型」を2つご紹介しよう。
 一つ目の「型」は、「日本好き外国人へのアプローチ」だ。日本のことをよくご存じの「日本好き外国人」を商品のファンにすることによって、日本来訪時の購入確率を高める、海外現地市場でのシェアを高めるというものだ。具体的には弊社の「Global Fan Clubプログラム」で実現できる。当プログラムは4つのSTEPで構成される。
 まずはファン層を発見し、タッチポイントを創出するSTEPから始める。弊社独自の1.5億人の外国人コミュニティを活用し、世界中から貴社商材のファン(潜在ファン)を見つけ出す。次のSTEPでは、リサーチや参加型企画を通じて、海外の貴社商材ファンの購買理由や活用方法を把握して、ファンのインサイトを明確化して理解する。3番目のSTEPでは、デジタルコミュニケーションとリアルコミュニケーションの2軸で、ファンと潜在ファンとのコミュニケーションを実施し、攻略ポイントを抽出する。そして最後のSTEPでは、見出した“勝ち筋”を基に商材やフェーズに合わせたファン、市場の拡大施策を実施する。
 弊社ではこれを「ファンエコノミクス サイクル」と呼ぶ。「ファンとの的確なコミュニケーション→ファン層への適切な拡散方法→ファンを発見、ファンのニーズの理解→」のサイクルを回すことで、再現性とROI(投資収益率)が高まる。つまりユニットエコノミクス(1顧客当たりの収益性)を構築するわけだ。海外にファンをつくれば、来日したら購入してくれるし、母国でも買ってもらえる。このような状態になれば、真に世界で戦えるブランドへの道が開ける。ファンをつくるためには、どういった方がファンなのかだけではなく、商品の持つ価値を徹底的に見ることが欠かせない。


韓国人観光客ならではの行動パターンに着目

 もう一つの「型」は、日本に訪日予定の韓国人の「マストバイ(買い物)リスト入り」し、大ヒットを目指すというものだ。韓国における検索プラットフォームのトップシェアの「Naver」では、「韓国人が日本に旅行したら買うべきもの(マストバイリスト)」が数多くアップされている。韓国人は「流行を追う」国民性で、訪日時には、Naverで検索してヒットするこれらのリストに入っている商品を購入する傾向が強い。過去の施策例では、複数のTOPコスメブロガーが半年間、商品を愛用し、ファン化して口コミレビューを実施するよう戦略的に仕掛けた。これによりマストバイリスト入りに成功し、安定的に売上が向上した。ただ、この方法は韓国人向けのインバウンド戦略の一番の近道ではあるものの、ただの「商品の押し売り」となるリスクもある。そうならないように、「商品に勝ち筋があるか」「そもそも韓国人ゲストにウケそうなのか」を弊社でチェックの上で実施可否を判断している。


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 本セミナーのタイトルは「訪日ゲストの変化とこれからのインバウンド市場」だが、結論として申し上げたいのは「訪日ゲストは何も変わっていない。変わらなければならないのは私たち日本企業の方」ということだ。アフターコロナのインバウンド対策では「戦略」「お客様の理解」「コミュニケーション」の3つの設計を実施すること、しかもデジタルで実施することがますます重要となるはずだ。