株式会社プラネット

HOME > 知る・役立つ・参加する > 広報誌 Planet VAN VAN > 2026 Autumn Vol.152 > 進化するAIと企業戦略 中編

TISI株式会社 
ビジネスイノベーション事業部 
ストラテジー&
デジタルコンサルティング第1部 
マネージャー
高野 啓也氏

企業のAI活用法を専門家に聞く連載の第2回。前号では、生成AI導入・活用にあたり重要となる考え方や社内体制整備のポイントを、企業での実践例も交えながら解説した。今回は、AIが最も得意とする領域の一つである、大量のデータ処理・データ分析にスポットを当て、具体的な導入事例を紹介する。TISI株式会社でデータ活用を中心としたコンサルティングを行っている高野啓也氏に解説していただく。
※本記事は取材時(2026年7月)の情報をもとに作成しています

反復作業をAIにゆだね クリエイティブな業務に注力

 AI活用のポイントは、大量のデータ処理や反復作業などをAIに任せ、それによって浮いた時間を生産的・創造的な業務に振り向けることにある。私が主に担当しているゲームやアニメ、グッズなどのエンターテインメント業界では、テクノロジーに対する企業の理解が深く、AI活用が進みつつある。しかし、「こういうゲームがあると楽しい」「こんな商品があると人気が出るだろう」といった、感性が求められる部分は人が考える必要がある。そのため、簡単な数値のシミュレーションや試算などはAIに任せ、スタッフがクリエイティブな業務に集中できる環境をつくることが重要と言える。
 以下では、小売事業におけるAIの活用について、実際に運用されている事例を紹介したい。

商品マスタ整備作業を自動化 ECサイトのレコメンドに活用

 一つ目は、ECサイトで使用する商品マスタの整備を、生成AIを使って省力化した企業の事例だ(図表1)。
 ECサイト運営において、取り扱う各商品に「メタデータ(付帯情報)」を付与する作業は各社共通の課題だ。たとえばトイレットペーパーであれば、「日用品」「メーカー名」といった商品に紐づく各種情報があり、こうしたさまざまな情報を、生成AIを使って分類した。

 従来は新規登録された商品を一つずつ見て分類していたため、多大な人的リソースが割かれていた。また、手作業による分類には担当者ごとの解釈のばらつきという大きな問題が生じる。同一のアパレル商品でも、ある人は「インナー」、別の人は「アンダーウェア」と表記すると、分類基準が統一されない。
 そこで、このプロセスに生成AIを導入し、商品名や商品説明文などを一括投入することで、標準的なカテゴリへ自動分類させる仕組みを作った。
 最大の成果は、データ精度の向上に伴い「ユーザー向けレコメンド(おすすめ)のパーソナライズ」が可能になった点である。たとえば「日用品の購入者にはお米も提案する」というような、サイト内における最適なアプローチや商品誘導が実現した。これにより、顧客データに基づき自社サービス内のさまざまな商品を的確に提案できるようになり、他社サイトへの離脱防止に大きく貢献している。
 また、この企業ではグループ内で複数のECサイトを運営しており、サイト間で商品マスタの整備方針が異なる点も課題であったが、生成AIの導入によって表記や基準の統一が進み、グループ全体でより利用価値の高い商品マスタを構築することができた。

バイアスのない高精度の需要予測で 商品在庫を適正化

 二つ目は、機械学習と呼ばれるAI技術を使って需要予測を行った企業の事例だ。
 この企業ではECサイトと実店舗の両方を運営しており、実店舗では商品在庫を置けるスペースに限りがあるため、精度の高い需要予測が求められる。そこで、AIに過去の販売実績を学習させることで、ECサイトでの販売動向をもとに実店舗での需要予測を立てるというモデルを構築した(図表2)。ここで使用したのは、LightGBMという予測モデルだ。

 従来はスタッフがデータを見ながら需要予測を行っていた。AIが行った予測と人が行った予測はおおむね一致したが、商品によっては異なる場合もあった。人が予測する場合は商品に対する期待や思い込みなどがバイアスとして働くことがあり、それに対してAIはデータのみに基づいた客観的な予測ができる。
 需要予測が上振れすると過剰在庫につながり、逆に下振れすると機会ロスを招く。予測の精度を高めることによってそうした損失を防ぐことができるとともに、従来は人が行っていた作業をAIに代替させることで、マーケティングやキャンペーンといった他の業務に時間を充てられるメリットが得られている(図表3)。

データ整備はAI活用の大前提 統一フォーマットで蓄積を

 これらの事例を踏まえて、AI活用のポイントをいくつか挙げてみたい。
 まずはデータ整備の重要性だ。AIに限らず、データを活用するにはフォーマットや表記の統一が大前提となるため、データが未整備の場合には使える状態にする必要がある。一つ目の事例で見たように、そのプロセスに生成AIを活用することも可能だ。
 データには定量データと定性データがあるが、二つ目の事例で使用したのは定量データだ。口コミなどの定性データをAI分析することも可能ではあるが、口コミの評価が必ずしも売れ行きと比例するわけではないため、需要予測には使用しなかった。定性データの取り扱いには、より慎重な判断が求められる。
 分析を行うには、ある程度データの蓄積があることが前提となる。一般的にデータ蓄積が少ない新商品は変動要素が多く予測が難しいが、二つ目の事例ではECサイトでの先行データを活用することで、実店舗での新商品の需要予測を可能にした。このように、通常の需要予測ではデータの蓄積が豊富な既存商品の方が精度が高くなる傾向にある。
 たとえばプラネットでは卸売業から小売業への販売実績である「販売データ」を提供しているが、こうしたデータも、どの商品をいつ・どこに・どれだけ販売したかという過去の実績が標準化されたフォーマットで蓄積されているため、需要予測に用いることは可能と言える。
 また、商品にどんな素材を使っているか、どんなパッケージデザインか、どのタレントをプロモーションに起用したかといった情報も付帯していけば、売れた、あるいは売れなかった要因の分析もできるだろう。
 このように、データを蓄積し、利用可能な状態に整備することが、AI活用の第一歩となる。

ROIを指標に導入効果を検証 目的に合ったAIを選ぶ

 AIを使ってどのような効果を出したいかを、あらかじめ設定することも重要になる。たとえば二つ目の事例のAIによる需要予測では、在庫の適正化や作業時間の削減が最大の目的だった。こうした狙いが明確になっておらず、漠然とした期待からAIを導入しても、「使ってみたけれど目立った効果が出なかった」ということになりかねない。
 評価の指標としては、売上高、経費、人件費などROI(投資利益率:利益÷投資額×100で計算)の改善に貢献できるところに活用することがポイントになる。AI導入の前後で数値が向上したかどうかで、活用の成果が挙がっているかを客観的に評価できる。
 なお、現在は生成AIが特に注目されているため、需要予測に生成AIを活用したいといった相談を企業から受けることも多い。しかし、二つ目の事例では近年話題の生成AI技術に依存せず、従来型の機械学習AIモデルを用いている。生成AIは対話しながら使えるため使い勝手がよく、汎用性も高い。一方で、特定の目的に使用する場合は別のAIを選択したほうがよい場合もある。
 また、生成AIサービスも多様化しており、コスト、パフォーマンス、処理速度などの面でそれぞれに長所と短所がある。どれを使うべきかはケースバイケースであり、企業ごとのニーズや既存のシステムとの親和性などを考慮しながら選択することになる。

AIに業務を肩代わりさせ 人がより能力を発揮できる組織に

 先に挙げた二つの事例では、いずれも従来は人が多大な時間をかけて作業を行っていた。AIなら同じ作業を短時間でこなせるため、労働時間の削減につながり、スタッフは「どうすれば売れるか」「どんなキャンペーンを行えばよいか」といった、より本質的・創造的な課題に取り組めるようになった。また、フォーマットの統一や在庫の適正化などの効果も得られた。
 人をAIに置き換えるという発想ではなく、AIが得意な分野はテクノロジーで補いながら、スタッフが能力をより発揮できるようになることで、組織をさらに発展させることができる。AIを使ってできる分析は簡単な作業から高度な処理まで幅広いため、ハードルを感じずにまずは着手してみることをおすすめしたい。