10年後のありたい姿を明確に 社員の思いをパーパスに込める
- 坂田
- 当社は今年40周年を迎えますが、エステーさんは創業時に出資していただいた8社のうちの1社でもあり、以来大変お世話になってきました。まずは感謝申し上げます。
- 上月
- 私は御社とのお付き合いが始まった2年後の入社です。基幹EDIサービスがあることでスムーズな受発注ができていることに、こちらこそとても感謝しています。
- 坂田
- 上月社長は2023年6月にエステー株式会社の代表執行役社長に就任されましたが、早々と「こころに響くアイデアで、ふとした瞬間を、ふふっと笑顔に。」というパーパスを策定し、就任から約1年後に中期経営計画の「SMILE 2027」を発表されています。新パーパス策定にあたってはどのようなお考えがあったのでしょうか。
- 上月
- 当社は戦後間もない1946年に創業しましたが、以来約80年、ごく短い期間を除いて創業家が社長を務めてきました。私は生え抜きではありますが、経営経験が少ないこともあり、就任時から社員全員で考え、行動し、会社を動かしたいという思いを強く持っていました。そのためには当社の目指す方向性を示すことが重要と考えました。そこでまず、社員全員にアンケートを行い、全国の工場や支店などに出向いて大勢の社員と対話を重ね、8か月かけてつくり上げたのがこのパーパスでした。
- 坂田
- 社長に就任されて数か月の間に花王さんから譲受されたペットケア事業をスタートさせるなど、立て続けに様々なことに取り組んでいます。そのスピード感には感服するばかりです。就任される前から、かなり具体的なお考えがあったのでしょうか。
- 上月
- まったくありませんでした。社長に任命される前は業務用商品を販売する子会社「エステーPRO」の社長を務めており、同社を成長させることだけを考えていました。
ただ中期経営計画をつくろうという考えは当初からあり、そのためにまず「100日プロジェクト」を立ち上げました。やはりスピードが大切だと思ったので、100日という短い期間で中期経営計画に必要な今後の方向性や成長戦略の骨子などを創案しました。
「かおり」を武器に 拡大するウェルネス市場へ

既存の枠からはみ出ることで新しい商品やサービスが生まれることもあります
上月氏
- 坂田
- 「SMILE 2027」で中長期の成長テーマとして「かおり×ウェルネス×グローバル」を掲げ、「日用品メーカーからウェルネスカンパニーへ」という10年後のありたい姿を描いていますが、そこに込めた意図や狙いはどんなものだったのでしょうか。
- 上月
- パーパスをつくったとき、このパーパスが体現する我々の企業としての立ち位置はどこなのかを明確にしたいと思いました。当社の商品は衣類の防虫剤やトイレの消臭剤など、日常の「不」を解消する商品が多い。それも重要ですが、そこにもっと付加価値をつけられないかと考えました。例えば、単に香りがよいだけでなく、心地よいおやすみ環境をサポートする、ほっと安らげるひとときをお届けするなどです。そうした領域まで行けば、今後拡大が見込まれているウェルネス市場にも商品の幅を広げることができます。また、ウェルネスを追求することで、パーパスに掲げた「こころに響くアイデアで、ふとした瞬間を、ふふっと笑顔に。」の、実現にもつながります。
- 坂田
- 計画の中では「かおりを通じて、ウェルネス領域で社会課題を解決し、国内のみならずグローバルにおいて新たな事業の創出を進める」ともうたっています。
- 上月
- 当社の主力商品である衣類の防虫剤は、1年中半袖で過ごせる東南アジアなどでは衣替えの習慣がなく、グローバルに展開するのはかなり難しいです。しかし、香りに関しては違います。好まれる香りはそれぞれの国で異なりますが、例えばある香りが気分をやわらげるとなれば、世界中どこでも通用します。そこで、まずは香りとウェルネスを組み合わせて国内でのプレゼンスを上げ、それがうまくいったらグローバルに広げていきたいと考えています。
ペットケアは高い成長が続く有望な市場
- 坂田
- 2023年に「ニャンとも清潔トイレ」に関する事業を花王さんから譲受され、エアケアとペットケアを成長戦略の両輪に位置付けていますが、ペットケアについてはどのような戦略を描いているのでしょうか。
- 上月
- ペットケアもエアケアと同様、グローバルなマーケットでの成長が期待できる分野だと思っています。先進国では人口は減っていますが、ペットの数はこれからますます増えていくでしょう。先進国でなくても、生活が豊かになれば多くの家庭でペットを飼うようになります。ペット関連は非常に将来性のあるマーケットです。
しかし、実際に飼ってみたら、においが気になってストレスになるなどという話もよく聞きます。我々は消臭という得意分野を持っており、そうした悩みを解決できる商品を届けることができます。マーケットとしての魅力はもちろんですが、ペットと暮らす幸せがウェルネスにも繋がります。 - 坂田
- エステーさんはオリジナリティのあるユニークな商品を多数出されています。香りに関しても、千葉ロッテマリーンズとコラボしたオリジナルフレグランスをリリースしたり、福井県と「恐竜時代のかおり」を創香するなど、新しいことにもどんどん挑戦されています。
- 上月
- 香りを軸にしたビジネスは大きな可能性を秘めています。しかし、個人が生活の中に取り入れることはあっても、香りをビジネスやサービスなどに利用している企業や自治体はまだ少ないのが現状です。
福井県とは包括連携協定を結んでおり、地域の活性化や魅力発信などを目的とした様々な取り組みを推進していますが、その一つとして依頼されたのが福井県の魅力を発信するための香りでした。福井県立恐竜博物館などの協力をいただきながら創香したのが「恐竜時代のかおり」で、大阪・関西万博の福井県のブースではディフューザーを使って噴霧し、まるで恐竜時代に迷い込んだ感覚になるよう空間を演出しています。よくイマーシブ(没入感)という言葉で表現されますが、視覚や聴覚だけでなく嗅覚も刺激することで、その世界により入り込んだような体験が味わえます。 - 坂田
- 香りは様々な分野、いろいろな場面で活用できそうですね。
- 上月
- 当社では会社のロゴや社歌と同じように、会社の香りがあってもよいのではないかと考え、コーポレートフレグランスも創香しました(写真)。これはパーパスを作ったときに社員アンケートに書かれていた3万4000語以上の言語情報をAIで解析し創香したもので、市販するためではなく、社員に配るためにつくりました。このアイデアはその後、福井県鯖江市や長野県山ノ内町などで自治体の香りを創香するというプロジェクトに生かされ、町おこしやノベルティグッズなどに役立てていただいています。

北海道に分布するトドマツの枝葉から抽出した精油をベースに、エステー株式会社の香りとして創香したコーポレートフレグランス(左)。その香りを染み込ませたフレグランスカード(右)はカードケースに入れ、名刺に香りを移して使用する社員が多いという。
取扱店舗を探すのに便利な「取扱店舗検索サービス※」
- 坂田
- プラネットでは基幹EDIをベースに、これまではお客様の業務効率化を進めるためのデータを提供してきましたが、今後は価値創造に資するようなデータやお客様の意思決定に役立つようなサービスの提供にも力を入れていきたいと考えています。
- 上月
- 当社でも御社のデータをいろいろ活用させていただき感謝していますが、中でも便利だと感じているのが「取扱店舗検索サービス」です。我々のお客様相談室に寄せられる問い合わせの約15%は「この商品はどこで売っているのか」というものです。特に新商品がリリースされたり、メディアで紹介されて人気が出たりすると、そうした問い合わせが多くなります。
そこで、プラネットさんの販売データを活用し、取扱店舗をホームページで検索できるようにしたところ、そうした問い合わせが大きく減り、他の問い合わせに今まで以上に時間を割いてお答えできるようになりました。これは非常にありがたかったですね。 - 坂田
- そういう声をいただけるのはうれしい限りです。プラネットでは、新たなサービスとして物流業務を改善するため、ロジスティクスEDIも提供しています。
※ エステー株式会社様の販売データ活用事例「取扱店舗検索サービス」を提供 利便性向上と購入機会創出を図るをご覧ください
ASNを活用し 納品時間を大幅に短縮
- 上月
- 当社も「2024年問題」が持ち上がる以前から納品に時間がかかるという悩みを抱えていましたが、ASN(出荷予定データ)を活用して効率化を図れるようになったことで、現在は納品時間が大幅に短縮できるようになりました。こうした課題はメーカー1社だけで解決するのは不可能で、多くの卸売業や物流業者と共に取り組む必要があります。データを活用して効率化を進めるプラネットさんの存在は非常に大きいと思っています。
- 坂田
- 日本のよいところはどんな地域に住んでいても、多種多様な商品を等しく入手できる点です。それはメーカーや卸売業、物流業者の努力の賜物でもあります。そうした様々な商品を全国津々浦々まで届けるという物流システムの素晴らしさは維持しながら無駄をできるだけ省くことは、人口減少や労働力不足といった課題に直面する私たちにとって不可欠であり、業界全体が一丸となって取り組む必要があります。多くの企業が関わることなので一朝一夕にはできませんが、当社もスムーズな物流を実現するため、今後も力を尽くしていきたいと思っています。
業界の壁を取り払うことで さらなる成長も可能に

1社でできなくても業界の枠を越えた取り組みによって解決できることは多いと思います
坂田
- 坂田
- 御社は中期経営計画の中で「日用品メーカーの壁を打ち破り、力強い再成長を目指す」とうたっています。日本経済はずっと右肩上がりでしたが、これからは人口も減り、低成長時代に入ります。そうなると日用品という枠を取り払わないと、成長は難しいのではないでしょうか。エステーさんがウェルネスという言葉を使うことによって、提供する商品やサービスの幅が広がったように、定義を変えることで違う領域に出ていくためのハードルが下がるように思います。そのためにも、異なる経験を持つ人材を広く活用し、これまでのルールに捉われることなく、自由な発想で様々なことにチャレンジしていくことが求められていると思います。
- 上月
- 私たちも、例えば消臭芳香剤というカテゴリーの中でよい商品を作ろうと考えがちで、それはそれで大切なことですが、そこからはみ出ることで新しい商品やサービスが生まれることもあります。当社のコーポレートフレグランスも、売ろうと思ってつくったわけではありませんが、結果的に町おこしに繋がったり、社員のロイヤルティを高める一助になっていたりします。
今の若い世代は我々とは育ってきた環境が違います。彼らの考えをあまり型にはめず、その意見がどんどん通るような企業が増えてくれば、日用品業界だけでなく、社会全体が変わっていくだろうと思います。それがもっと暮らしやすい社会の実現にも繋がっていくのではないでしょうか。 - 坂田
- 物流の効率化など、1社でできないことでも業界の枠を越えた取り組みによって解決できることは多いと思います。私たちが提供しているEDIに関しても、皆さんのお知恵を拝借しながら、次世代を見据えたさらに使いやすいものにしていきたいと思っています。本日はありがとうございました。
