基幹EDI
「全銀TCP/IP+可変長」による基幹EDIサービス活用事例
- 大日本除虫菊株式会社
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専務取締役
上山 久史さん情報システム部 開発課 課長
尾崎 恭裕さん
大阪市西区土佐堀1-4-11
http://www.kincho.co.jp/
(PLANETvanvan 2011年春号(vol.90) 掲載記事より)※役職等は取材当時のものです。
現在、プラネットの基幹EDIサービスは、2つの通信手順(AS2、全銀TCP/IP)と2つのフォーマット(可変長、固定長)を組み合わせた、全4パターンの接続が可能となっている。今回は、2008年より「全銀TCP/IP+可変長(TSV)」の組み合わせを採用している大日本除虫菊を訪問し、全銀手順からの切り替えの経緯やその効果などについてうかがった。
全銀手順に代わる通信手順を検討
「KINCHO(金鳥)」の商標で広く親しまれている大日本除虫菊株式会社。1885年の創業以来、世界で初めて「かとり線香」や「液体電気蚊とり」を発明し、日本初のエアゾール「キンチョール」、臭いのつかない衣料用防虫剤「ゴン」を開発するなど、常に人々の生活に寄り添いながら、新しい発想でオリジナル商品を開発・提供し続けてきた。
最近では、独自の新技術で長期間虫よけ効果を発揮する「虫コナーズ」シリーズが話題を呼び、大ヒット商品となっている。
同社では、早くから基幹EDIサービスを利用していたこともあり、通信手順は全銀手順をずっと使用していた。当初はさほど問題はなかったが、取り扱うデータ量の増大に伴い、通信トラブルの発生時やボリュームの多い販売データを受信する際に支障をきたすようになっていた。
「全銀手順では、販売データは1時間に約3万件しか取れません。当社の場合、連休明けなどはデータが20万件以上となり、受信に7時間近くもかかってしまいます。また通信時間が長くなると、それだけトラブルのリスクも高くなります。当然、再受信にも時間がかかりますから、通信トラブルが発生した際には受発注業務を優先して、販売データの再受信を夜間に実施する、連休でデータ量の増加が想定される時には、休日出勤するなどして対応していました」と、情報システム部開発課の尾崎課長は当時の様子を振り返る。
そうした中、全銀手順・固定長フォーマットに代わる新たな組み合わせとして、プラネットより「AS2+可変長」への切り替えの提案を受けた同社は、2007年6月から情報収集と検討を始めたところ、いくつかの問題が浮かび上がった。
「AS2はシステムの構築費用が高く、また、認証の仕組みが複雑で、取り組みづらいという問題がありました。さらに一番の問題は、AS2がインターネットを使用した通信手順だという点でした。実は当社には、基幹系の処理にはインターネットを使用しないというセキュリティーポリシーがあり、結局、採用は難しいということになりました」。
その後、通信手順の見直しは保留になっていたが、2007年12月にプラネットが全銀TCP/IPと可変長フォーマットの組み合わせをEDIのサービスメニューに追加。AS2とほぼ同様のメリットが得られるということで改めて社内で検討し、切り替えの実施を決定した。
安定した通信環境とコストダウンが実現
「全銀TCP/IP+可変長」の採用を決定してから、実際にシステムが稼働するまでの期間は約半年だった。2008年4月にディーラーと打ち合わせを開始し、必要なシステムの構築、通信環境設定等を依頼。8月に単体テスト、結合テスト等を実施して、9月には本番稼働した。
「今回、社内の基幹システムでは従来どおり固定長データを使用し、プラネットとの通信部分のみ基幹系から切り離して可変長に変換し、EDIサーバーでやり取りする仕組みを採用しました。そのためにはデータ処理(ジョブ)の分割が必要で、一つのジョブを基幹システムでの前処理、EDIサーバーでの通信、基幹システムでの後処理、の3つに分けて、受発注、物流など別ジョブとの重複をコントロールするように仕様を変更しました」(尾崎課長)。
テスト中の並行期間は、データコピー機能を利用して、本番機とまったく同じデータを取得し、マッチングをした。「通信環境の設定やデータの変換などはディーラーに任せたので、さほど苦労はありませんでした。稼働後に設定変更ミスによるトラブルが発生した際は、初めてということもあって対応に手間取りましたが、全体としてはスムーズに移行できたと思います」。
切り替え後の効果として同社が一番に挙げたのは、通信スピードの向上。これまで1時間かかっていた3万件の販売データ受信が、約15分で完了するようになり、大型連休時にも休日出勤をする必要がなくなった。また、通信時間が短縮したことで、トラブルも激減したという。
「昔は通信上のエラーが月に1回くらいありましたが、全銀手順に比べて全銀TCP/IPは安定しており、通信時間も短いので、最近では通信エラーによるトラブルは一切ありません」。
一方、費用の面でもメリットは大きかった。通信時間の短縮とデータ種変更による通信コストの低減はもちろん、システムの安定化によるトラブル対応の減少など、目に見えない部分の効果もあった。さらに、2011年1月からのプラネットの料金改定により、さらなるコストダウンが実現している。
将来の拡張性を見据えた選択を
「全銀TCP/IP+可変長」への切り替えについて、上山専務取締役は次のように総括する。
「当社の業務は時期によって波があり、ピーク時の対応には苦労していました。ですから処理時間が短縮され、作業が標準化できたこと、トラブルが少なくなったことは大きな成果です。
オープン化は世の中の流れですが、社内にはこれまでに築き上げてきた財産ともいえるシステムやポリシーがあり、すぐにすべてを変えることはできません。今回、専用ネットワーク(閉域IP)を利用する全銀TCP/IPと可変長という組み合わせをプラネットが用意してくれたため、基幹系にインターネットを使用しないという当社のポリシーを堅持したまま、新しいデータフォーマットに取り組むことができました」。
さらに、可変長のデータフォーマットを採用した理由については、「今はコストダウンのメリットばかりに目が行ってしまいますが、それよりもデータ種としての将来性、可能性に投資していると私たちは考えています。今のうちから、徐々にこうしたデータを扱える環境を整えていくことが大事なのです」。
同社は近年、情報系システムを強化し、営業支援に注力している。すでにPOS分析や販促金管理、店頭分析、営業日報などに取り組んできたが、今後はさらに、販売データの有効活用が重要課題の一つだという。現在、販売データを受発注データと同じく基幹系システムで処理しているが、営業が販売データをタイムリーに確認できる仕組みが必要だ。モバイル端末も視野に入れた販売データ活用の検討を進める中で、可変長でデータを取っていることのメリットが生きてくるはずだと上山専務は語る。
最後に、上山専務よりプラネットへリクエストをいただいた。「販売データの活用について、自社で集められる情報には限りがあります。プラネットにはぜひ、“この仕組みでこれだけ変えることができた”という成功事例を数多く紹介してほしいと思います」。
ご期待どおりユーザーの皆様のお役にたてるよう、プラネットとしても今後、一層の情報提供に努めていきたい。