株式会社PALTACでは、逼迫する物流環境の改善に向け、デジタルデータを活用した作業環境の効率化を進めています。「ロジスティクスEDI」を利用した荷受け・検品作業の効率化もその一つです。プラネットユーザー会では、同社専務執行役員 情報システム本部長の前田政士氏をお招きし、その活用方法についてご講演いただきました。
伝票レス・検品レスが進む川下側
川上側はアナログ作業が残る
2024年5月、株式会社PALTACでは中期経営計画の発表に合わせ、「つなぐ力で人と社会のミライを創る」という長期ビジョンを発表しました。流通プロセスをデジタル情報でつなぎ、流通のムリ・ムダ・ムラを解消し、すべてのステークホルダーの皆様に貢献していきたい。このスローガンにはそんな思いが込められています。
ドライバーの労働時間に上限が課された、いわゆる2024年問題への対応に皆様も苦慮されていることと思います。このままでは2030年に物量の34%が納品できなくなるというシミュレーションもあります。持続可能な社会を実現する上でも、「強く」「しなやか」で「高効率」な物流システムを構築していかなければなりません。
はじめに卸売業である当社の事業概要について説明すると、当社から小売店へ商品を出荷する〝川下〟の流れと、メーカーから商品を受け取る〝川上〟の流れという2つの商流があります。小売店側に関しては受注データ(小売店からの発注データ)をいただいた後、商品と同時にASNと呼ばれる事前出荷データを送り、小売店側からは商品の受け取り後、受領データを当社にオンラインで返送していただきます。こうした流れが十数年前から確立されており、伝票レス・検品レスがすでに実現しています。一方、メーカー側との取引に関しては、当社からメーカーに発注データを送信後、納品データとともに商品が届きますが、荷受けの際には商品の検品や伝票への押印といったアナログ作業がまだ残っています。これを改善していくことが、物流の効率化を進める上での大きなカギになってくると思われます。
入荷予約システム「SLIM」の導入で
ドライバーの待機時間を約65%削減
メーカーから当社の物流センターに商品が届き、所定の場所に格納されるまでには、①トラックの到着・待機、②荷受け・検品、③仕分け・格納という3つの工程があり、それぞれに課題があります。なかでも①と②の工程ではすべての作業が終わるまでドライバーが待機しなければならず、拘束時間も長くなりがちです。そこで、この課題の解決に向け、①と②をどう改善したかについて説明させていただきます。
まず①トラックの到着・待機という工程では、特定の時間帯にトラックが集中し、早朝などは物流センターの周囲にトラックが数珠つなぎのように連なるほど混雑するという問題がありました。これを解消するために導入したのが、自社で開発した入荷予約システム「SLIM」(Sustainable Logistics InformationManagement system)です。これはドライバーに事前にバースを予約してもらうことで待機時間の短縮を目指すもので、21ある当社の物流センターすべてに導入されています。その結果、導入前は平均54分かかっていた待機時間(物流センター前での順番待ちの時間)が18分になり、約65%削減することができました。
センター側の受け入れ体制についても、いつどんな商品が入ってくるのかというデータが蓄積されることによって計画的に人員を配置できるようになり、庫内作業の効率化も実現しました。
「ロジスティクスEDI」の導入で
荷受け・検品作業の効率化を推進
次に②荷受け・検品の工程ですが、これはプラネットの「ロジスティクスEDI」を導入することで効率化・省力化の実現を目指しています。
ロジスティクスEDIがどんなものかを簡単に説明すると、まず当社から発注データをプラネットの基幹EDIを通してメーカーに送ります。メーカーは在庫の出荷処理を行い、納品する商品情報を出荷予定データ(ASN)として当社に送信します。当社ではそれを待ち受けデータとして活用します。
入荷・検品後は当社から入荷検収データをメーカーに送り返しますが、この工程に関しては現在、検証実験の最終段階に来ており、2025年2月までに導入が完了する予定です。現在、21の物流センターのうち、16拠点でドライバーの検品立ち会いを省略しており、この検証が終わると完全な検品レス・伝票レスが可能になるはずです。
ロジスティクスEDIを導入する前はどのように荷受けや検品作業を行っていたかというと、まず入荷した商品のITFコードをスキャンします。そのとき、端末に同じ商品の発注データが複数表示されることがあるので、入荷した商品がどれに該当するのかを選ばなくてはなりません。次に数量を入力し、格納するエリアを選択します。賞味期限など期限の管理が必要な商品については、期限を手作業で入力します。こうした入荷・検品作業は全商品に対して行うため、すべての作業が終わるまでドライバーは待機しなければならず、待機時間も必然的に長くなっていました。
一方、ロジスティクスEDI導入後は、ASNの中に発注ナンバーが含まれているため、その商品がどの発注データのものかを確認する必要がありません。期限情報もASNから自動的に取り込まれるため、手作業での入力は不要です。これにより、入力ミスなどの人為的エラーも防げるようになりました。
従来型検品とASN検品を比較
作業時間を約37%短縮
このシステムを導入したことで、荷受け・検品作業にかかる時間をどれだけ短縮できたのでしょうか。従来の検品方法と、発注ナンバーが自動選択されるASN検品を、同じ条件のもとで比較・検証しました。使用した商品は日用雑貨20SKU、医薬品38SKUです。医薬品の従来型検品では、発注ナンバーの選択とともに使用期限の入力も行いました。その結果、日用雑貨の方は従来型検品が6分36秒かかったのに対し、ASN検品は33秒早い6分3秒となり、約8%短縮できました。さらに使用期限を入力した医薬品の方は、従来型検品の12分21秒に対し、ASN検品は7分48秒と4分33秒の時間短縮となり、約37%削減できました。
現時点ではロジスティクスEDIが導入されておらず、従来型の検品を行っている物流センターもまだ残っています。それでも全体では20%の削減効果が表れています。現場からも「商品ケースに記載されている賞味期限を入力する手間がなくなり、検品時間が短縮された」「以前はドライバーから渡された伝票を見て格納場所を決めていたが、配送される商品が事前に分かるので、格納場所に近いバースで荷受けするなど、作業の効率化とドライバーの待機時間削減につながっている」などの声が聞かれました。
当社の取引企業ではロジスティクスEDIを導入しているメーカーが13社、導入予定のメーカー3社、確認中のメーカー4社と、まだ少ないのが現状です。導入によるメーカー側のメリットは、ペーパーレス化による伝票発行にかかわるコストの削減や、伝票の保管場所が不要になるなどが挙げられます。ドライバーの拘束時間削減によって、運送コストの低減も期待できます。
また、当社では小売店の物流センター運営(預託倉庫)を受託しています。預託倉庫では自社が発注した商品だけでなく、他社が発注した商品も納品されます。よって、荷受け作業を行う際に、自社分だけでなく預託分のASNも必要です。この対応については、日用品サプライチェーン協議会で検討いただいております。
物流のムリ・ムダ・ムラを省き、サプライチェーンの効率化・最適化を実現することは、業界全体に求められている社会的使命でもあります。ロジスティクスEDIを導入する事業者が増えれば増えるほど、大きな効果が期待できます。ぜひ1社でも多くのメーカー・卸売業の皆様に導入のご検討をお願いいたします。