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HOME > 知る・役立つ・参加する > 広報誌 Planet VAN VAN >  2025 Winter Vol.145 > 日本の郷土玩具ばなし「鞨 鼓」

 今にも鼓を打ち鳴らしそうな躍動感に満ちたこの人形は、三春張子を代表する「鞨鼓」。福島県郡山市には人形を意味する「デコ」の名が付いた「デコ屋敷」という集落があり、そこで作られています。三春張子の起源は明らかになっていませんが、江戸時代、仙台の堤人形にならい作られた土人形が始まりという説があります。それが様々な事情で張子に置き換わり、三春藩の保護を受け発展し、歌舞伎や舞踊などの華やかな題材を中心に多くの種類が作られ、各地で人気を博すようになったと言われています。しかし明治時代に入り藩の援助がなくなると、徐々に衰退していきます。


 時は流れ1950年代。地元の研究家の小沢太郎とデコ屋敷の橋本広吉ひろきちは江戸期の張子の研究と復元に取り組み、三春張子の多くをよみがえらせ、三春は再び張子の産地として賑わいを見せるようになりました。


 三春張子の特徴はなんといっても躍動的なフォルムでしょう。和紙、竹ひご、型紙などの軽い素材を生かした張子人形だからこそできるもので、流れるような筆で描かれる表情や色彩豊かな花模様も美しく、そのフォルムをもり立てています。鞨鼓とは天下泰平や五穀豊穣、商売繁盛を願いながら鳴らす雅楽の鼓のこと。体をぐいっとくねらせ、袖をはためかせながらばちを振り上げるフォルムの秀逸さに唸らざるをえません。顔の中央にグッと寄せて描かれた表情も強く優しくしなやかで、誰もが惹きつけられることでしょう。


佐々木一澄(ささきかずと)
1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン 学科卒業。雑誌、書籍、絵本などの仕事を中心に活動。絵本 作品に『からだあいうえお』(保育社)、『でんしゃからみつ けた』(PIE INTERNATIONAL)など。著書に『てのひらのえんぎもの』(二見書房)、『こけし図譜』(誠文堂新光社)。