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HOME > 知る・役立つ・参加する > 広報誌 Planet VAN VAN > 2024 Autumn Vol.144 > 日本の郷土玩具ばなし「奉公さん」

 高松張子は明治初年、旧藩士梶川政吉が大量に廃棄される大福帳だいふくちょうなどの反古紙ほごがみを利用し、張子を製造したのが始まりと言われています。昭和に入り戦争の影が濃くなるにつれ下火になっていきますが、政吉の次女である宮内フサが復活させ、百二歳まで娘のマサエとともに作り続けました。現在はフサの孫の太田みき子さんが作っています。


 高松張子はどの型も極端なまでに簡略化されたシンプルなフォルムに、流れるような筆で模様が描かれているのが大きな特徴です。そしてどの人形も子どもが自然に笑った時のような無邪気な表情をしています。なかでも代表的なのは、疱瘡ほうそう除けの赤で全身が彩られ金の宝珠が描かれた「奉公さん」という女の子の人形です。昔、高松藩の姫が病気を患った時、奉公していた「おまき」という少女が姫の身代わりとなって自分にうつし、離れ小島でひとり亡くなったという伝説にちなんで作られるようになったといいます。ただそれは後世に語られ始めた逸話で、「奉公さん」という呼び名は、お雛様の原型の一つである厄除けのぬいぐるみ「這子ほうこ」が転訛てんかしたものと考えられています。


 「奉公さん」は無邪気でありながらも、その表情には寂しさも宿しているように見えます。それがより一層魅力的で、「かわいい」だけが人形の魅力ではないということを、この張子を見るたびに思うのです。
江戸~明治時代の商家で使われていた帳簿の一種


佐々木一澄(ささきかずと)
1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。雑誌、書籍、絵本などの仕事を中心に活動。絵本作品に『からだあいうえお』(保育社)、『うみとりくのからだのはなし』(童心社)など。著書に『てのひらのえんぎもの』(二見書房)、『こけし図譜』(誠文堂新光社)。