子どもの絵から飛び出してきたような自動車。神奈川県の大山で作られている玩具です。
大山の山頂には山岳信仰で有名な阿夫利神社があり、木地玩具は参拝客の土産物として作られ、発展してきました。なかでも大山独楽は「人間関係も生活もよく廻る」と縁起の良さが好まれ、江戸時代に描かれた玩具絵本「江都二色」にも登場しました。
大山に何人かいる作り手のひとり、播磨屋の播磨啓太郎さんが作る木地玩具はユニークです。どれも東北で作られる木地玩具を応用したもので、さまざまな独楽、猫、鳩、笛、ウサギの餅つきなどじつに多くの種類があります。玩具たちはみな元気で、一点の曇りもない明るい表情をしています。そして何よりも作っている啓太郎さん自身が楽しんでいることが伝わってきます。
この自動車は、赤、青、黄、緑、ピンクといった派手な色同士が強く主張しています。それぞれの要素が喧嘩しそうなバランスでありながら、不思議とそこには子どもが描く絵のような牧歌的な世界があります。きっと啓太郎さんの楽しさが全てを調和させているのでしょう。この少し情けない表情がたまりません。
争いが絶えず不条理な世界で生きる人々も、啓太郎さんの玩具を見れば笑みを浮かべ、争ってなんかいられないな……と軽やかな気持ちになるかもしれません。人に優しくしてみようと。そんな風に思える玩具です。
佐々木一澄(ささきかずと)
1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。雑誌、書籍、絵本などの仕事を中心に活動。絵本作品に『からだあいうえお』(保育社)、『うみとりくのからだのはなし』(童心社)など。著書に『てのひらのえんぎもの』(二見書房)、『こけし図譜』(誠文堂新光社)。