割った饅頭を持ちキョトンとした表情で立つ子どもの人形。父母のどちらが好きかと尋ねられた子どもが、饅頭をふたつに割り、「どちらがおいしいか?」と聞き返したという話を基にしたもので、子どもが賢くなるまじないとして作られたようです。
日本の土人形の祖とも言われる伏見人形。埴輪や土器などを焼いていた職人の余技として、稲荷神の降臨地である京都・稲荷山の土を用いて作られ、そのはじまりは奈良時代以前ではないかと言われています。
高級な御所人形などに比べて安価で、大衆的な題材を取り入れているため、求めやすく、江戸時代には多くの旅行客の土産物になりました。求められた伏見人形は伏見街道から陸路で伝わったほか、北前船で海路を渡り、日本全国に広まりました。それを目にした全国の作り手に参考にされ、それぞれの地でそれぞれの土人形が作られるようになりました。そんな歴史から伏見人形は土人形の祖とも呼ばれて、「饅頭喰い」も各地の郷土玩具の代表的なモチーフとなっています。
土人形の祖というだけあって、伏見人形には3000種ほどの型があります。最盛期には60軒もの窯元で作られていましたが、現在作っているのは1軒のみ。品格に溢れた歴史ある人形が絶えることなく、ずっと続いていくように祈っています。
佐々木一澄(ささきかずと)
1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。雑誌、書籍、絵本などの仕事を中心に活動。絵本作品に『からだあいうえお』(保育社)、『うみとりくのからだのはなし』(童心社)など。著書に『てのひらのえんぎもの』(二見書房)、『こけし図譜』(誠文堂新光社)。