まるまるとした招き猫に抱かれただるまは、なんとも居心地が良さそうです。東京都西部の多摩地域※では、こんな楽しい張子が作られています。
多摩地域は古くから織物の産地として有名で、 蚕(かいこ)がよく育つことを願って、倒れても起き上がるだるまを神棚に飾る風習があります蚕が古い殻を割って出てくることを「起きる」といいます)。
江戸末期、萩原友吉(はぎわら ともきち)という器用な男が、群馬県の高崎あたりから売りにきた張子のだるまを参考に農家の副業として作ったのが始まりのようで、それが多摩だるまの起源といわれています。
だるまのほかにも、蚕の敵である鼠(ねずみ)を捕まえてくれる猫にまつわるものも多く作られていて、それがまた楽しく、愛らしいのです。
だるま抱き招き猫は、福を招き、鼠を捕まえてくれる頼れる猫と、疫病をよけ、蚕が育つことを願うだるまが組み合わさった二重の縁起物です。目を大きく開いた猫が愛嬌たっぷりに表現され、やわらかなフォルムでだるまを優しく包み込んでいます。
現在、日本各地で作られているだるまは、効率化のために機械で生地を作る真空成型という製法が主流になり、均一化され、玩具としての味わいは薄まったように感じます。
そんな中、多摩だるまでは、いまだに紙を一枚一枚手で張ったものも多く作られ、そのデコボコした味わいには郷土玩具の魅力が詰まっています。
※多摩地域:東京都のうち23区と島しょ部(伊豆諸島・小笠原諸島)を除いた地域で、30の自治体(26市3町1村)がある
佐々木一澄(ささきかずと)
1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン 学科卒業。雑誌、書籍、絵本などの仕事を中心に活動。絵本 作品に『からだあいうえお』(保育社)、『でんしゃからみつ けた』(PIE INTERNATIONAL)など。著書に『てのひらのえんぎもの』(二見書房)、『こけし図譜』(誠文堂新光社)。