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HOME > 知る・役立つ・参加する > 広報誌 Planet VAN VAN > 2022 Autumn Vol.136 > 日本の郷土玩具ばなし「キナキナとデグノボーこけし」

 グッと下部がくびれた胴に丸い頭のシンプルなこけし。マントを羽織り帽子を被った頭が俯(うつむ)き加減なこけし。無彩ゆえ、「木」そのものが見え、多様な表情を感じられます。使われる木はアオハダを主にヤマナシや楓などさまざま。岩手県花巻市や盛岡市で作られる南部系こけしというものです。


 もともと南部系のこけしはこけしではなく赤ちゃんのおしゃぶりとして江戸時代後期頃に作られ始めたようです。「キナキナ」と呼ばれ、赤ちゃんが握りやすい小さなもので、くわえた部分が口の中で動くようにゆるくはめ込まれています。キナキナという少し変わった呼び名は、はめ込まれた頭が揺れる様子の擬音語。オノマトペを得意とする宮沢賢治の出身地らしい楽しい呼び名です。


 宮沢賢治といえば、右のこけし。「デクノボーこけし」といって、賢治をモチーフに花巻の煤孫盛造(すすまごもりぞう)さんが創案したもの。頭が揺れるキナキナの特性を活かし、帽子を被り俯(うつむ)いた賢治の立ち姿をこけし化しています。


 我が家の子どもが赤子だった頃、おもちゃとしてキナキナを渡すと、手にした瞬間、躊躇なく頭部を口に含み、チュパチュパとしゃぶったり、ハムハムと噛んだりし始めました。赤ちゃんは口や舌でなんでも確認するとはいえ、あまりにも自然な動きがなんだか嬉しく、使わなくなった今でも、歯形がついたキナキナは僕のおもちゃ棚に懐かしい思い出と共におさまっています。

※オノマトペ :自然界の音・声、物事の状態や動きなどを音で象徴的に表した語


佐々木一澄(ささきかずと)
1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。雑誌、書籍、絵本などの仕事を中心に活動。絵本作品に『からだあいうえお』(保育社)、『うみとりくのからだのはなし』(童心社)など。著書に『てのひらのえんぎもの』(二見書房)、『こけし図譜』(誠文堂新光社)。