ピンクの手足を生やした達磨が、鰹と大福帳を持ち、顔を赤くしています。きっと給料日でお酒をたくさん飲んで気分が良いのでしょう。こちらは静岡県浜松市で作られる郷土玩具のひとつ、浜松張子の「酒買い達磨」です。
浜松張子は、明治初年に江戸から浜松に移住した旧幕臣の三輪永保が江戸の張子に影響を受けて作り始めました。その後を継いだ息子の永智は、玩具商で修行をした経験を活かし、たくさんの張子を創案。地元の子どもたちに親しまれました。
しかし第二次世界大戦の空襲で、工房と木型の全てを焼失。終戦から三年後、気落ちした永智の代わりに妹の二橋志乃が木型を再興し張子作りを復活させます。昭和三十四年には志乃の功績が認められ、浜松張子は市の無形文化財に指定されます。その後を継いだのは、志乃の嫁の加代子。「先代たちの張子をそのまま作っているだけでは、何もやっていないと思われてしまう」と、浜松張子らしさを失わないオリジナルの張子を創案。さらに娘の鈴木伸江に引き継がれ、魅力的な張子が日々丁寧に作られています。
二代目永智が創案した「酒買い達磨」は、本来厄除けであるはずの達磨が吊るされることでフラフラと揺れ、こんなにも呑気な姿をしています。「もっと肩の力を抜きなよ」と言ってくれているようで、なんとも癒される張子です。 (敬称略)
佐々木一澄(ささきかずと)
1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン 学科卒業。雑誌、書籍、絵本などの仕事を中心に活動。絵本 作品に『からだあいうえお』(保育社)、『でんしゃからみつ けた』(PIE INTERNATIONAL)など。著書に『てのひらのえんぎもの』(二見書房)、『こけし図譜』(誠文堂新光社)。