鶏を抱えた猿が目を見開き、こちらを見ています。この印象的な人形は「鶏猿」と呼ばれるもので、旧古賀村(現在の長崎市東部)で作られる古賀人形という郷土玩具のひとつです。
古賀人形の始まりは、日本を旅していた京都の土器師が旧古賀村に滞在し、農家の小川家に土器の製法を伝えたことにさかのぼります。文禄元年ごろ、現在の古賀人形の祖先となる土人形が作られはじめ、現在は19代目の小川憲一さんに引き継がれています。
モチーフになるのは唐人、オランダ人、西洋婦人などの外国人、そしてさまざまな動物たち。長崎はオランダ、中国との貿易の窓口になっていたということもあり、土人形も異国情緒たっぷり。大陸と日本の空気がねっとりと混ざり合ったかのようです。日本らしさとして「わびさび」という言葉がよく使われますが、そんならしさとは違う濃厚な魅力を纏っています。
絵に描いた「鶏猿」は、赤、黒、黄の色彩がなんとも強烈で、たくさんの種類がある古賀人形の中でも特筆すべきものです。鳥と猿で「とりさる」、悪い気を取り去るという意味合いがあると言われています。真偽のほどはわかりませんが、こんな猿に出くわしたら、悪い気も一目散に逃げ出していくでしょう。玄関に飾っておくと守ってくれそうです。
佐々木一澄(ささきかずと)
1982年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン 学科卒業。雑誌、書籍、絵本などの仕事を中心に活動。絵本 作品に『からだあいうえお』(保育社)、『でんしゃからみつ けた』(PIE INTERNATIONAL)など。著書に『てのひらのえんぎもの』(二見書房)、『こけし図譜』(誠文堂新光社)。