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プラネットユーザー会2021

トークセッション抄録

持続可能な社会のために
一般消費財業界ができること

一般消費財業界はSDGsをどう捉え、消費者にどんなことを発信していけばよいのか。 大阪大学招へい准教授でSDGsの問題にも詳しい中川郁夫氏をモデレータに迎えて開催されたトークセッションから、その一部を紹介する。

中川 郁夫
大阪大学招へい准教授、
一般社団法人DeruQui発起人・理事、
株式会社ソシオラボ代表取締役
PROFILE 1993年、株式会社インテックに入社しインターネット技術の研究に従事。2005年、東京大学より博士(情報理工学)授与。 2012年に大阪大学招へい准教授、2020年より現職。

村上 彩子
株式会社マックスドナ代表取締役、
ETHICAL TIME代表、
SDGs ACTION代表
PROFILE 2017年よりSDGSの啓発活動を始め、学校、企業、団体、自治体などで研修講座を開催する。2019年、札幌市にセレクトショップ「エシカル・タイム」をオープン。

原 琴乃
外務省職員、一般社団法人持続可能社会推進機構参与、
絵本作家
PROFILE 2005年、外務省入省。2017年から政府のSDGS推進の政策立案に携わる。公務外でも、サスティナビリティに関わる活動や出版に従事。現在、在英国日本国大使館勤務。

SDGsの推進が企業に利益と成長をもたらす

原 琴乃氏
 企業にとって、SDGsに取り組む意義は何か。それはビジネスチャンスの活用とリスクの回避という2つの側面があると考えられる。2017年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)が、SDGsの達成のために新しいマーケットと3億8000万人の雇用を生み出すと発表しており、SDGsの推進は企業に大きな成長と利益をもたらすチャンスを与える。ESG投資なども活発化しており、投資家も消費者も企業をSDGsで評価するようになってきた。
 一方、リスクを回避する意味でもSDGsは重要だ。SDGsを念頭に、世界各国で新たなルールや規制、認証・標準制度などがつくられている。これに遅れを取るより、先手を打って対応する方が経営コストを低く抑えられる。部品・製品の製造を担う企業に100%再生可能エネルギーを使うことを義務付けるグローバル企業もあり、バリューチェーンでの生存や活躍においてもSDGsへの取り組みが欠かせない。
 国内のある調査では2018年に14.8%だったSDGsの認知度は、2021年に54.2%になった。中でも10代から30代という若い層での認知度が高く、「SDGsについて自分で何か行うにはハードルが高い」と考える人も若い世代ほど少ない。ミレニアム世代やZ世代は、仕事を選択する際にいかに社会に役立つかを重視したり、ボランティア活動に関心がある比率が一番高いといわれている。彼らを労働力として取り込み、社員のモチベーションアップを図るには、働き方の改革や女性の活用、健康経営など、組織マネジメントでもSDGsの視点が不可欠となる。SDGsを経営戦略の中核に位置付け、CSRなど一部の部門だけではなく、全組織を挙げて取り組んでいく必要があるだろう。
 SDGsは私たち一人ひとりが〝自分ごと〟として捉え、自ら行動していくことが大切だ。今まで別々に活動していた人たちがSDGsという共通言語でつながることで、異なる社会における共創が生まれ、大きな変革のうねりをつくり出すことができる。その過程において重要なのがイノベーションで、企業が果たす役割は非常に大きいといえる。
 日本の価値観、文化力、技術力はSDGsとの親和性が高い。世界で長寿企業が最も多いのが日本で、それは「三方よし」に始まるような、さまざまなコミュニティとの共存が私たちの経営文化の中に染み込んでいるからだ。日本に根付いている「もったいない」という精神や生活の知恵、最先端の技術力などを融合していけば、国際社会に貢献でき、成長のチャンスも取り込める大きな潜在力になると考えられる。

「エシカル消費」を見据えた 商品開発が不可欠な時代に

村上 彩子氏
 2019年に「サスティナブルな毎日の提案〜未来をつくる買い物と暮らし」をテーマに、セレクトショップ「エシカル・タイム」をオープンした。地球と社会、つくる人、使う人、そして動物にも未来にもやさしいという「六方よし」をコンセプトに、衣食住に関わる多彩な商品を提供している。
 さまざまな課題があるSDGsの中で自分に何ができるのかを考えた結果、たどり着いたのが「エシカル消費」だ。「エシカル」とは日本語で「倫理的な」という意味がある。環境や人、社会などに配慮した商品を消費者の立場で選ぶことで、サスティナブルな社会の実現に貢献したいと考えている。
 人や社会への配慮という点では、ストーリーのある商品が注目されている。製造過程において環境に悪影響を与えていないか、児童労働や強制労働が行われていないかなど、その商品の裏側にある隠されたストーリーに着目して購入する消費者が増えているのだ。そうした商品の製造に携わる途上国の人々の暮らしを向上させるため、原料や製品を適正な価格で購入する「フェアトレード」も広く知られるようになってきた。
 国内のフェアトレード認証製品は2010年を境に増え続けており、2019年の推定市場規模は124億1340万円となった。だが2017年の統計では、フェアトレード認証製品の年間購入額は一人当たり94円。1位のスイス9623円、2位のアイルランド8540円などと比べて大きな開きがある。フェアトレード製品の購入は、貧困の撲滅や持続可能な農業など、SDGsの17のゴールのうち8つに貢献できる。買える環境があるということが購入金額に結びついている面もあるので、できるだけ多くの企業・店舗にフェアトレード製品を扱ってもらうことも必要だろう。
 「エシカル・タイム」をオープンした当初はSDGsの認知度も低かったが、この数年で消費者の意識が大きく変わってきたのを感じる。ワークショップやフェアトレード製品の開発などを通じて若い世代と交流することも多いのだが、彼らの中ではすでにエシカル消費が当たり前になっている。もちろん価格も考慮するが、買う・買わないの判断基準の一つにエシカルの視点が入っている。
 全世界では1990年代中盤以降に生まれた、いわゆるZ世代が人口の4分の1を占めるようになった。これからの消費トレンドをつくり出す彼らに向け、SDGsの考え方をベースにした商品開発がますます重要になってくるだろう。

SDGs経営が生む優秀な人材の確保や従業員の働きがい

中川氏
 今回は一般消費財業界からいろいろな企業の皆様にご参加いただいている。企業にとってSDGsはどんな意味を持つのか。それぞれメッセージをいただき、このトークセッションのまとめとする。
原氏
 SDGsに資する商品やサービスを提供することや、SDGsに基づく組織マネジメントを行うことは、企業価値の向上や組織力の強化につながると考えている。特にSDGsに積極的に取り組む企業は、社員からの好感度が高く、会社への愛着が強いことも統計に表れている。これは優秀な人材の継続的な確保が容易になるというメリットがあると考えられる。
村上氏
 SDGsを経営戦略として取り込んでいくには、SDGsに取り組むことの本質をきちんと整理し、実際の行動に落とし込んでいく必要がある。SDGsは従業員の働きがいにも深く結びついている。彼らの子どもや孫が100年後にどうなっていたいのかという明確なビジョンを消費者にわかりやすく発信することで、その理念に共感し、商品を購入するお客様も増えてくるに違いない。