日本の祭りには、米の豊作を願うものが多い。中でも「田遊び」は、その典型的な行事だ。「遊び」というのは、神事の意味を持っている。年の初めに米作りの様子を演じることで豊作を招くという、呪術(じゅじゅつ)行事なのである。
田遊び系統の行事は全国各地で見られるが、中でも多いのが東海地方。静岡県焼津市の「藤守の田遊び」はその代表格だろう。現在は三月十七日に行われるが、元来は旧暦一月の行事であった。
日中の様々な儀礼を経て、田遊びが始まるのは暗くなってから。天狗や獅子が舞台を浄めた後に、いよいよ米作りの演技が始まる。鍬入れ、田植え、稲刈りといった作業はもちろん、草を取ったり鳥を追い払ったりと演目は多い。いずれも歌舞や芝居的な演出で、エンターテインメントとして楽しむことができる。
そして何といっても目を奪われるのは、終盤の「猿田楽(さるでんがく)」(写真)だろう。八人の青年が、咲き誇る万燈花(まんとうか)の被り物で登場する。飛び跳ねるたびに揺れる花が暗闇に浮かび上がり、なんとも美しい。満開の花もまた実りの象徴として、豊作につながる呪術なのだ。今年も、豊かな実りがもたらされますように。
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藤守の田遊(ふじもりのたあそび)
■開催日:3月17日
■開催地:静岡県焼津市藤守 大井八幡宮
■アクセス:JR東海道本線藤枝駅からバス・タクシー
※田遊び終了時にはバスの運行はありません
※最新の開催状況などは以下よりご確認ください
焼津市歴史民俗資料館ホームページ https://www.city.yaizu.lg.jp/rekimin/index.html
監修・文 久保田裕道 独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所 無形民俗文化財研究室長
著書に『日本の祭り解剖図鑑』(エクスナレッジ)、 共著に『民俗芸能探訪ガイドブック』(国書刊行会)など。