株式会社プラネット

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物流業務の効率化と機能強化を目指し、プラネットでは2021年1月、
化粧品日用品業界に向けた「ロジスティクスEDI概要書Ver. 2.0」を策定・公表した。
その意義と目的はどんなところにあるのか。
「ロジスティクスEDI」の推進に多大なご協力をいただいている
ライオン株式会社執行役員SCM本部長の平岡真一郎氏をお招きし、
当社社長の田上正勝と「ロジスティクスEDI」が物流課題の解決に果たす役割について語り合っていただいた。

物流の三大課題 共通のフォーマットが大切

田上
 化粧品日用品業界における物流の課題をどのように捉えていますか。
平岡
 私たちの業界だけに限らないと思いますが、現在の物流には三つの大きな課題があると考えています。一つ目は効率化です。物流にかかるコストをできるだけ抑え、お客様に手頃な価格で商品をお届けする。これは永遠に続く課題です。二つ目が5年ほど前から言われるようになった「ホワイト物流」への転換です。物流の現場では、商品搬入の際の待機時間が長いなど、ドライバーの長時間労働・長距離運転が問題になっています。いかに労働生産性を高め、現場で働く方たちの労働環境を改善していくか。これはドライバー不足を解消し、商品を滞りなく届けるためにも重要です。そして三つ目が最近クローズアップされているSDGs(持続可能な開発目標)への対応です。特に物流においては、トラックから排出されるCO²(二酸化炭素)の削減が大きな課題です。
田上
 メーカー各社がそうした物流課題に取り組み、個別に課題解決に向けた会合を開いていたことは承知していました。2017年初め頃、かつてプラネットの窓口をされていた平岡さんに声をかけていただき、私もその会合に参加しました。そこで物流に関する課題を一緒に解決できないかというお話をいただいたのが、当社がロジスティクスEDIに取り組むきっかけでした。
平岡
 この話を持ち込んだのは、プラネットの出発点と重なる話だったからです。プラネットは36年前に化粧品日用品業界に標準EDIの提供を開始し、メーカーと卸売業間の受発注を一本化しました。それと同じことを物流でもできないかと考えました。
 物流現場では今、荷受作業を効率的に行い、ドライバーの負担を軽減しようと、バース予約システムやRFID※1によるパレット管理など、新しい様々なシステムが導入され始めています。しかし、各企業が独自のシステムをそれぞれ個別に導入すると、取引相手は取引先ごとの様々なシステムに対応しなければなりません。プラネットがこの業界に標準EDIを提供し始めた頃と同じような状況が現在の物流業界で起きているのです。そうした状況を回避するには、共通のフォーマットでデータをやりとりするのが一番いい。そうすれば、取引先ごとにシステムを用意する必要がなくなります。
田上
 とてもありがたいご提案でした。定型的な事務合理化を目的とした今までのEDIとは異なり、物流現場で発生している様々な課題を解決するためのEDIになりそうで、当社にとって未知の部分が多く「勉強しながらになりますが一緒に進めさせてください」と慎重にお返事したことを覚えています。
※1 RFID:Radio Frequency Identification=ICタグを使った無線通信によって、モノを識別・管理するシステム

ASNは段階的に精度を上げて現場のシステムやアプリで利用

田上
 おかげさまで当社の標準EDIは、化粧品日用品業界のメーカー・卸売業間では90%近くのシェアがあり、ここにASN※2などの物流に関する情報も載せると、業界の商流・物流の情報を合わせて広範囲にカバーできる可能性があります。ASNで、どの商品が、いつ、どれだけ届けられるかを事前に知ることができれば、荷受側は前もって準備ができ、作業効率は大幅にアップします。しかし、どのトラックにどんな商品が載っているかまで知りたいとなると、物流事業者にご協力いただかなくてはなりません。
平岡
 業界全体をカバーするプラネットのEDIネットワークに、段階的にロジスティクスEDIの共通フォーマットを載せることが業界全体の物流課題を解決する近道と当社は考えました。
 私はロジスティクスEDIの第一スコープ、第二スコープなどと呼んでいますが、第一スコープはメーカーがトラックに商品を積んだ後の出荷情報で、これが通常言われているASNです。第二スコープは、どの商品がどのトラックに載っているという車両情報まで入ったASNで、受注管理とTMS※3と呼ばれる配車管理の両方のシステムから出てくる情報を突き合わせて荷受側に伝えるものです。第三スコープのASNになると、商品を積んだパレットや台車の番号といったマテハン情報まで載せることができます。さらに第四スコープでは、それが荷受企業の何番バースに何時に着くといった時間情報まで網羅できると考えています。
田上
 物流現場では今、検品やパレット管理、バース予約など、荷受までの物流情報をトータルで管理するシステム業務を効率化するための様々なシステムやアプリが入ってきていますが、標準化されたものがありません。ロジスティクスEDIは流通するデータのフォーマットを統一し、ASNをはじめとするロジスティクス情報をどの企業でも利用できるオープンな仕組みを目指しています。自分たちのシステムに合わせて使いやすいデータを選んでくださいという発想です。データを標準化し、どのシステムでも対応できるようになれば、それぞれのスコープで発生した各社の情報全体を把握できるようになり、物流現場の様々な課題を見つけやすくなります。
※2 ASN:Advanced Shipping Notice=事前出荷情報。納入業者から納入先に対し、出荷情報を事前に通知すること
※3 TMS:Transportation Management System=輸配送管理システム。出荷から届け先までの物流情報をトータルで管理するシステム
 

ハード面の共同化からマネジメント面の共同化へ

ロジスティクスEDI の活用で
「共同」から「協調」へ

平岡氏
平岡
 これまで物流の効率化を進める大きなカギは「共同化」だと考えています。
田上
 貴社はすでに競合するメーカー各社と様々な共同事業に取り組んでいますね。
平岡
 複数のメーカーがそれぞれの商品を同じ倉庫で保管し、同じトラックで卸売業に届けるという仕組みが生まれたのが、この業界の共同化の始まりでした。2016年に解散したプラネット物流がその役割を担っていました。今でも共同経営していた仕組みは継承されていて、メーカー各社や卸売業、物流事業者などがそれぞれの枠組みとルールで臨機応変に行っています。今までは倉庫やトラックなど、いわゆるハード面での共同化を行ってきましたが、これからはソフト、つまりマネジメント面における共同化が求められています。
田上
 これまでの共同化の流れは理解できました。そうした共同化を物流管理の面でも行っていくのがロジスティクスEDIの考え方になりますね。
 大手メーカー同士が手を組み、様々な物流改革を進めると、大幅な効率化が期待でき、CO²の削減など環境面での効果も高い。その一方で、なかなか効率化が進まない中小メーカーがあると、ドライバーの労働環境やCO²のスコアなどが改善せず、部分最適になってしまう恐れがあります。やはり業界全体で全体最適を図るべきで、ロジスティクスEDIはそのための共通インフラとして機能すると考えています。ロジスティクスEDIには大手メーカーはもちろんですが、中小メーカーにも多数ご参加いただきたいと考えています。
平岡
 そのためにも当社が積極的に推進する必要があります。荷主であるメーカーとして、物流コストの抑制に留まらず安定した物流機能の継続は重要な経営課題です。プラネットがロジスティクスEDIを実装してくれたおかげで、当社は第二スコープでのASNの提供が可能な状況になりました。
 本年4月、当社はロジスティクスEDIを活用し、物流効率化に向けた「配送車両単位」でのASN提供準備を完了したことを公表しました。これにより、卸売業は発注情報と納品情報を事前に照合することができることに加え、荷受現場では事前に入手したASNと実際に入手する商品情報との商品の照合が可能になるため、検品作業の簡素化によるスムーズな入庫やペーパーレス化などの効率化が進むことになります。
 ロジスティクスEDIを突破口に最初にお話しした三つの物流課題を解決していきたいと思います。

「協調物流」が新たなキーワード 将来はSDGsにつながる

SDGs への取り組みとして
企業価値向上に貢献

田上
田上
 今後、化粧品日用品業界の物流はどのように進化していくとよいでしょうか。
平岡
 よく共同物流、共同配送という言い方をし、私も先ほど「共同化が効率化のカギ」と言いましたが、ロジスティクスEDIによって実現するのは「協調物流」「協調配送」だと思っています。「共同」と言うと、みんなが同じトラックに商品を載せて運ぶイメージがありますが、「協調」の場合はそうではありません。ロジスティクスEDIというインフラをベースにゆるやかに協力し合うことで、業界全体の物流が最適化します。トラックの待ち時間最短化や走行距離最短化なども、ロジスティクスEDIによって達成する可能性が高いと思います。
田上
 おっしゃるとおりです。業界を挙げた「協調物流」が実現すれば、業界全体での効率化、ホワイト物流が期待できます。ロジスティクスEDIはその起爆剤になると思います。
平岡
 ロジスティクスEDIは今のところ化粧品日用品業界だけの取り組みですが、これを他業界にも広げるのが次の目標です。例えば、常温輸送が可能な加工食品や菓子、飲料、OTC医薬品などに応用できます。業界の枠を超えた物流の効率化・最適化を進めることで、社会全体のSDGsへの取り組みにも貢献できると考えています。
 SDGsへの取り組みは、当社にとって最重要課題です。CO²削減の効果が見込めるロジスティクスEDIもその一環です。
田上
 SDGsへの取り組みは、いまや企業にとって必要不可欠な活動です。企業価値の向上への貢献も大きいと思います。ロジスティクスEDIがそうしたお役に立てるのは何よりです。

DXで現状を可視化し 「ペインポイント」を「ゲインポイント」に変える

田上
 物流の実態は各企業で異なります。同じ企業でもセンターごとに課題があり、その解決は簡単ではありません。そこでロジスティクスEDIでは、DX※4の考え方を取り入れることになると思います。デジタル化によってリアルを改革すると定義していますが、ロジスティクスEDIのデータを使い、現場で働く一人ひとりの困りごと、いわゆる「ペインポイント」を解消するような取り組みになればいいと思っています。その上でさらに良くなる改善点が見つかれば、「ペインポイント」が「ゲインポイント」に変わります。それこそがロジスティクスEDIを導入する具体的な成果であり、ロジスティクスEDIは物流のDXを推進するツールであるともいえます。
平岡
 私はDXの出発点は「可視化」だと思っています。物流の現場では、搬入作業のために何台のトラックが何時間待たされたかを把握することすら難しい場合があります。そうした場合でもロジスティクスEDIによって全体を可視化できれば、「ペインポイント」がはっきりと見えてきます。
田上
 商流EDIは多少のマイナーチェンジはあっても、あまり変化せずに長く使えてきました。しかし、ロジスティクスEDIではそうはいきません。高機能な物流センターが新しくできたり、メーカーと卸売業や小売業との間で物の流れが変わったりすると、自社だけでなく他社を含めて仕組みを見直さなくてはなりません。現場の課題を解決するには、常にダイナミックに変化し続ける必要があると考えています。
※4 DX:Digital Transformation=デジタル技術を活用して、人々の暮らしや企業の製品・サービスなどに革新的な変化をもたらすこと
 

物流システムを更新 ロジスティクスEDIを3~5年で全面活用

田上
 貴社は来年、物流システムを刷新するそうですね。
平岡
 基幹システムをすべて新しいシステムに入れ替えます。具体的に言うと、主に財務でしか使っていなかったSAP※5を、需給管理や生産管理などすべての業務で活用します。それに合わせて物流管理システムも全面的に切り替えます。そこにロジスティクスEDIを導入し、3年から5年の間にそのデータを全面活用したシステムを構築し、物流スマート化を推進します。
田上
 従来であれば現場での実験や協議会での検討を経て実装するという手順を踏むのですが、ロジスティクスEDIに関しては利用企業からの要請があれば、その計画に合わせられるよう進めていきたいと思います。
平岡
 ロジスティクスEDIには今後も非常に期待していますし、日本の物流に与えるインパクトは極めて大きいと考えています。
田上
 ありがとうございます。「ロジスティクスE D I 概要書Ver. 2. 0」をもとに、実稼働に向けた取り組みは着々と進んでいます。今後ともメーカー、卸売業、物流事業者の皆様のご協力を賜りながら、物流の効率化・最適化に貢献してまいります。
 本日はありがとうございました。
※5 SAP:ドイツに本社を置くSAP社が提供する企業向けのソフトウェア。全部門を一元的に管理できる