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プラネットユーザー会2020

特別講演抄録

変革期に立ち向かう3つのヒント
― デジタル、ローカル、価値 ―

一般社団法人ジャパンショッピング ツーリズム協会 代表理事 事務局長
株式会社USPジャパン 代表取締役社長
新津 研一

新津 研一 (にいつ けんいち):
一般社団法人ジャパンショッピング ツーリズム協会 代表理事 事務局長 / 株式会社USPジャパン 代表取締役社長
三越伊勢丹グループにて、店舗運営から営業戦略、新規事業開発まで幅広く担当。 「イセタン羽田ストア」「イセタンミラー」などを立ち上げる。2012年、株式会社USPジャパンを創業。日本の観光立国実現を目指し、政府機関や地方自治体、民間企業などに向け、幅広い提言を行っている。

新型コロナウイルスの感染拡大は、インバウンド市場を大きくシュリンクさせた。アフターコロナを見据え、今、何をすべきか。
「未曾有のピンチは絶好のチャンス」と捉える新津研一氏に、「変革期に立ち向かう3つのヒント」について講演していただきました。

大変革期の今、何をすべきか 30年後をイメージする

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、訪日外国人観光客は99.9%減少。インバウンド市場だけでなく、あらゆる面で世界は大きく変わった。しかし、未曾有のピンチは絶好のチャンスでもある。この大きな変革期に立ち向かうために、私たちは何をしたらよいのか。3つのヒントをベースに皆さんといっしょに考えてみたい。
 アフターコロナをめぐっては、ワクチンや特効薬さえできれば、元の生活に戻れると言う人もいる。しかし私は、コロナによって消費者の意識は決定的に変わってしまったと考えている。100年に一度と言われるこの未曾有の危機は、消費者の深層心理に決定的な変化をもたらした。これを乗り越え、皆さんの会社が20年後、30年後も生き残っていくには、未来の生活や社会を想像しながら、今、何をするかにかかっている。
 30年後の世界をイメージするため、まず30年前の1990年頃を思い出していただきたい。当時はバブル経済が崩壊し、元号が平成に変わったばかり。この年に発売されたのがスーパーファミコンだが、コンピュータや通信を取り巻く環境は今とまったく異なっていた。スマートフォンはなく、知りたいことがあれば、図書館に行って調べる時代だった。30年後の2050年には、もっと大きな変化が起きているはずだ。
 その未来を考える上でヒントになるのが、①デジタル、②ローカル、③価値という3つのキーワードだ。これは旅の専門家や有識者などにインタビューした結果、共通して出てきた言葉である。さらにこの3つから、それぞれ2つずつのテーマ(計6つ)を導き、合計9つのポイントで、これからのビジネスを考えてみたい。

前提条件はリアルからバーチャルへ 〝個〟に向けサービスを提供する時代

 1つ目のキーワードは「デジタル」である。リアルな旅が難しくなる中、スマートフォンなどのデジタル機器への接触率が高まり、コロナばかりではなく、世界の最新情報を知りたいというニーズが大きくなった。観光業ではデジタル機器を使ったバーチャルツアーも生まれた。
 そうした「デジタル」から考えられるのが、「前提条件がリアルからバーチャルになる」というテーマだ。私たちはこれまでリアルなコミュニケーションを前提に、アシストとしてバーチャルであるデジタルを使ってきた。しかし今はビジネスもコミュニケーションもデジタルが前提であり、「デジタルを伴ったリアルで何をするか」が問われている。
 「デジタル」の2つ目のテーマが「時間と距離を越え、個とつながる」だ。インターネットの普及で当たり前のように理解していたことだが、それが大きな影響力をもって目の前に現れてきた。例えば、EC(電子商取引)においては、匿名のマスマーケットやビッグデータではなく、個人である〝私〟向けにカスタマイズされたサービスをワン・トゥー・ワンで提供する時代になっている。

集中・効率化から分散・高付加価値へ ローカルにあってもグローバル

 2つ目のキーワードが「ローカル」である。旅の世界では、コロナによって遠くへ行けなくなる中、マイクロツーリズム、つまり地元を旅してそのよさを再発見するという動きが起こった。
 これまでは有名観光地や大都市への旅行が中心だったが、地方の魅力が増し、人の多い場所で密になるより、過疎地域の方が安全ということで人気が出てきた。通信やデジタル機器の発達によってローカルでのビジネス環境が整い、ワーケーションなどの新しい旅の形も生まれた。
 この「ローカル」から導き出される1つ目のテーマが「集中・効率化から分散・高付加価値への移行」だ。例えば農業では、大規模農園で大型機械を使い、単品を大量生産するのが主流だったが、今は家族経営の小規模な農園で栽培した高付加価値な商品を消費者に届けるのが世界的な潮流になっている。また、以前はマイナーな価値観と思われていた地方への移住も、大都市で働くよりクリエイティブなものが生まれるという評価に変わってきた。
 「ローカル」の2つ目のテーマが「グローカル」である。今まではローカルの商品はローカルの人々が買い、海外に売るのは輸出向けにつくられた商品だった。ところが、日本人がいつも使っている商品をネットで紹介したところ、世界中から注文が殺到するという事例が数多く出てきた。ローカルなものを発信する場合でも、世界中の人々が見ているというグローバルな視点がますます重要になっている。

新たな価値の誕生 安心・安全の価値をどう伝えていくか

 3つ目のキーワードが「価値」である。私たちは自粛期間中、移動や交流の価値を痛感した。旅に出たい、遠くに住む親戚や友人に会いたいという欲求は生きる上でとても重要だと改めて感じた。これは観光業に携わる人間に大きな勇気を与え、今後のビジネスのヒントにもなった。
 また、いつ旅に出られるかわからないと思ったとき、自分が本当に行きたいところへ行き、好きなことだけに自分の時間やお金を使いたいという価値観が大きくなった。ホテルのワンフロアを一家族で貸し切るというように、安心を担保するためには費用が2倍、3倍かかっても構わないという人たちも現れた。
 ここから導き出される1つ目のテーマが「新しい価値の誕生」だ。自然環境や安心・安全な生活を守るといったSDGsにもつながる価値観も生まれている。消費では「サブスクリプション」や「サービス化」がトレンドになっているが、すでに家電メーカーは電球ではなく明るい生活を、薬品メーカーは薬ではなく健康な生活を売るという打ち出し方にシフトしている。何をサービスし、それを提供することでどんな最適化を行い、社会にどう貢献するのか。そういったことを考えるタイミングにきている。
 そして最後のテーマが「安心・安全の価値」である。コロナによって社会が混乱する中、安心・安全の価値をお客様にどう伝えるかが重要になっている。日本の製品は世界中の人たちから期待されている。コロナが収束し、外国人観光客が再び日本を訪れるとき、私たちは彼らにどんなメッセージを出し、どうお迎えすればよいのか。それを考えなければならない。
 冒頭にお話しした通り、コロナの感染拡大は100年に一度、あるいはそれ以上に大きな危機だったかもしれない。表面的には変わらなくても、消費者の価値観はこれから確実に変わっていくだろう。その変化に対応するためにも、皆さんが考えたこと、思いついたことはどんどんプラネットにぶつけてほしい。私たちが共通の課題として考え、議論することがよりよい商品やサービスをお客様に届け、30年後のよりよい世界をつくるためのヒントになるはずだ。