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プラネットユーザー会2020

基調講演抄録

ロジスティクス4.0
― 物流におけるイノベーションと将来展望

株式会社ローランド・ベルガー パートナー
小野塚 征志

小野塚 征志 (おのづか まさし):
株式会社ローランド・ベルガー パートナー
富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。内閣府SIPスマート物流評価委員会委員長、国土交通省総合物流施策大綱検討会構成員などを歴任。

ロボティクスや自動運転、ビッグデータなどの技術の発達によって進んでいる物流の変革「ロジスティクス4・0」は、物流会社のみならず、メーカー・卸売業・小売業などの流通事業者にも大きなビジネスチャンスをもたらします。
国内外の数々の事例から見えてくる物流におけるイノベーションと将来展望について講演していただきました。

ロボットやドローン、自動運転の普及で「省人化」が加速

 物流の世界には過去3回の大きなイノベーションがあり、今まさに4回目の変革「ロジスティクス4・0」が訪れようとしている。
 そこで起きる変化の一つが「省人化」だ。ロボットやドローン、自動運転トラックの普及によって、輸送、保管、出荷などの作業で人の手を必要としなくなっていく。もう一つは「標準化」で、荷物やトラックの現在位置、倉庫の空き状況といった様々な情報がつながって物流の最適化に活用され、オペレーションが標準化・均一化していく。
 背景にはAIやIoTなどの技術の進化があり、また、人手不足やコロナ対応により、いかにして人を介在させずに物を運べるようにするかという課題がある。現在はこの二つが省人化と標準化を加速させている。
 「省人化」のゴールは人の手を介さずに物を運べるようにすることだが、現在は過渡期にあり、経験や技能が必要な仕事を誰でもできるようにすることや、ハードな仕事をなくすことがポイントになっている。その一例が自動運転だ。世界最大のトラックメーカーのダイムラーは、運転手が乗っているという条件付きで高速道路での自動走行を2025年に実用化する目標を掲げている。長距離ドライバーの不足が課題になっているが、長時間運転の負担を軽減できれば状況が変わり、輸送コストも大きく変えられる。
 ドローンについては、米国でアマゾンの商業利用の認可が下り、日本でも宅配利用の実証実験が始まっている。ただ、公的空間での飛行は落下の懸念があり、現在は私有空間での活用も進んでいる。たとえば世界最大の小売チェーン、米ウォルマートの物流センターは日本では考えられないほど広く、ドローンが在庫の棚卸しをしている。カメラをつけたドローンが荷物を撮影していくことで、人間なら3人がかりで1カ月かかる作業を30分で済ませられる。
 アマゾンなどの物流センターでは、ピッキング作業を代替、補助するロボットも活用されている。欧州の物流センターは2030年までに150万人分の作業がロボットに置き換わると予測され、これは現在の労働力の4割弱にあたる。逆に言えばロボット先進地域である欧州でも6割の作業は引き続き人の手で行われる。
 一方で日本の日立物流は、通常は多様な荷物を扱うが、2019年に開設した「ECスマートウェアハウス」では、荷物の大きさや数量などの条件を決めることで72%の作業をロボットが行うことを可能にした。現在のオペレーションを維持しようとすると機械化・自動化は進みにくいが、出荷や配送のスタイルをロボットに合うように変えれば、他社に先んじたイノベーションが実現できる。

「標準化」が進展し あらゆる情報がつながる

 「標準化」では川上から川下まで、サプライチェーンで言えば商品を作ってから消費者の手に届くところまで様々なものがつながる。また業界の垣根を越えて他社と一緒に物を運ぶような取り組みも行われる。あるいは気象情報や交通情報といった、物流以外の情報もつながっていく。これらが今後の大きなトレンドになる。
 米インフォアは「インフォア・ネクサス」というサプライチェーンを見える化する仕組みを提供しており、国際輸送される荷物の現在位置をリアルタイムで把握できる。このシステムにはもう一つ価値があり、ある場所からある場所へ運ぶ際の所要日数やコストなどの情報を蓄積し、よりよいルートを提案してくれる。このような仕組みはいずれ、国内のトラック配送でも出てくると予想される。
 日本のITベンチャーであるラクスルは、物流版ウーバーとも言える「ハコベル」というサービスを提供している。荷主と空きのある運送会社をマッチングする仕組みで、荷主は荷物を安く送ることができ、運送会社は稼働率を上げられる。このようなサービスは東南アジアではすでに広く活用されている。
 米インスタカートは、ウーバーイーツと同様の仕組みで買物代行サービスを提供している。ユーザー側は家から出ずに買物ができ、小売店側は自社で一から立ち上げることなく初期コストを抑えてネットスーパーを運営できるメリットがある。このような仕組みが、事業者が新しいビジネスに挑戦することを容易にしている。
 日本の航空測量業のパスコは、測量データや過去の気象データを蓄積しており、どの地域でどれだけ降水・降雪があればどのぐらいの確率で道路が封鎖されるという情報を持っている。それを活用して配車管理システムを提供しており、2014年に山梨で大雪が降った際には、このシステムを使っていたコンビニチェーンが早めにトラックを出したり、ヘリコプターを手配したりするという対応ができた。

物流が投資ビジネスに変化 流通事業者にとっても商機

 今までの物流会社は属人的なノウハウを蓄積することでスピードや正確性を高めてきたが、将来的には、ロボットを入れることで同じオペーションを実現できるようになる。また、トラックや倉庫の空きを見える化するシステムを使うことで最適化は半ば自動的に達成される。様々な情報がつながり、ハードも機械化されることで、これまで労働集約的な産業だった物流が、投資のビジネスに変わる可能性がある。しっかり投資をした会社が効率的なオペレーションを組むことができ、従来通り人の手で行おうとする会社は高コストで時代遅れになっていく恐れがある。
 このような変化は、メーカー・卸売業・小売業の流通事業者にとっても様々なビジネスチャンスにつながる。
 変革をリードする流通事業者の代表はアマゾンだ。米国では100カ所以上の物流センター、数千台のトラック、自社開発のドローン、飛行機など多くの物流資産を持っている。これらは自社の商品を運ぶために整備されたものだが、空きスペースを使って宅配サービスや小売の店舗配送を近い将来に始めるのではないかと目されている。それは恐らく米国内にとどまらない。アマゾンは顧客の情報を世界一持っている企業と言っても過言ではない。それを流通の最適化や商品開発に生かし、圧倒的な競争力を築こうとしている。

オープンプラットフォームで世界の巨大企業に対抗

 日本企業はアマゾンのようなメガプレイヤーとどう戦っていけばいいのか。一例としてニトリは、ホームロジスティクスという子会社をつくり、店舗配送や宅配のプロセスを自前化するとともに外販も行っており、他社の家具も運んでいる。ホームロジスティクスの物流センターはロボット化が進んでおり、配送網ではダイナミックプライシングを導入して配送費を時期により変動させている。このような投資や新たなビジネスの構築は、もともと物流会社ではないニトリならではのユニークな取り組みと言える。
 また、ECサイト「ロハコ」を運営するアスクルは、顧客データをメーカーと共有する「マーケティングラボ」という仕組みを設けている。メーカーがこの情報を使って開発した商品を販売する実証実験をロハコで行うことで、アスクルには他社のサイトにはない商品を扱えるメリットが生まれる。これは、アマゾンのように自社で収集した情報を自社の商品開発のみに生かすクローズドプラットフォームに対抗する手段としてのオープンプラットフォームだ。携帯電話の世界的なシェアでは、すべてを自前化しているアイフォーンではなく、後発でオープンプラットフォームのアンドロイドが一人勝ちしている。オープンな仕組みをうまく活用すれば、メガプレイヤーにも勝てる可能性があるという貴重な示唆だ。

価値を生み出す情報を収集 ビッグデータから新たな利益

 「情報がつながる」という点についても事例を紹介したい。アパレルのザラは、欧州の店舗でロボットを活用している。ロボットにはカメラがついており、誰がどの服を手に取ったかを記プラネットユーザー会 2020 Webセミナー開催録するほか、試着室から指示を受けてサイズ違いや色違いの服を運ぶといった役目も果たす。これにより、「手に取ったが買わなかった商品」「試着したが買わなかった商品」など、今まで手に入らなかった情報が蓄積できる。また、従来は年齢や性別しか分からなかった購入者データが、「カップルが買った」「スーツを着ている人が買った」というところまで分かるようになる。ロボットは省人化だけでなく、このような新しい価値も生む。
 世界最大の農機メーカー、米ジョンディアは農機にIoTデバイスをたくさんつけ、農機の使用状況からメンテナンスの需要を把握することで、パーツなどのサプライチェーンを最適化している。さらにこのビッグデータから新たな利益を得る取り組みも行っており、それは収穫量や種・肥料の使用量などの情報を商社や種子・農薬のメーカーに販売することだ。現状、ビッグデータで利益を上げている企業は多くないが、ジョンディアの場合は自社でもデータを活用するため投資する意味があり、しかも自分たちしか入手できないデータなので価値も高い。このような強みがあれば、本当に儲かるビッグデータビジネスにチャレンジできる。

自動車メーカーも物流ビジネスに参入 広がるビジネスチャンス

 ここまで荷主側の事例を紹介してきたが、物流会社や物流機械・システムメーカーの変化にも触れておきたい。
 物流会社の変化の一例として、サプライチェーンを川上から川下までつなぐ会社になることが考えられる。ただ物を運ぶだけでは価値が出せないので、川下で何が売れているかの情報をメーカーに還元し、サプライチェーンを最適化するというプラットフォーマーが物流の世界から現れるかもしれない。将来的には卸売業にとって物流会社が潜在的なライバルになりうる。
 ロボットメーカーは、ロボットが高価でなかなか売れないためレンタルサービスを提供しようとしている。将来的にはロボットを活用した物流センターの運営も自社で行うと予想される。同じような話はトラックメーカーにも当てはまる。自動運転車が事故を起こした際に、車両に問題があればメーカーが責任を問われる。よって、自社でメンテナンスを行うために、トラックを売るのではなく自社で保有して輸送サービスを提供するようになると考えられる。実際にダイムラーは欧州で修理工場を買収している。トラック輸送を運送会社ではなく自動車メーカーに依頼する未来がやってくる可能性がある。
 このような新しいテクノロジーの話は信じにくいかもしれないが、20年前を振り返っていただきたい。今では手放せなくなったスマートフォンはまだ存在せず、携帯電話がようやく普及しつつあった。今存在しないものが、20年後は普通になっていることも考えられる。アマゾンもアリババも楽天も、二十数年前にできた会社だ。それが世界一の企業になろうとしていることを考えれば、皆さんがこれから始めることが、20年後には世界を席巻している可能性がある。そんなビジネスチャンスが目の前に転がっている。