映画「千と千尋の神隠し」は、神々が集う「湯屋」が舞台となっている。そのモデルの一つとなったとされるのが、この「遠山の霜月祭り」だ。
長野県飯田市の静岡・愛知県境に近い山間部一帯を、古くは遠山郷と称していた。その遠山郷の各集落で、霜月(旧暦十一月、現在は十二月)に昼夜を徹して行われてきたのが、この霜月祭りである。
祭りの中心は「湯立て」という、大釜で神聖な湯を沸かす儀礼だ。湯に神々の御幣を浸す様子は、まるで神々が、湯に浸かりに訪れたかのようである。万物のエネルギーが弱まる冬、神々も湯に入ることで、その力を復活すると考えられた。
祭りには全国の神々を招待し、一晩かけて湯立てを行う。そして夜明け近く、面を着けた青年が演じる、地元の神々が登場。祭りの熱気は、最高潮に達する。特に盛り上がるのが「四面(よおもて)※」。最初に出現する水王(みずのおう)・土王(つちのおう)(写真は程野地区の土王)は、煮えたぎる湯に素手を突っ込み、周囲に撒き散らすのである。
見る方も「寒い・眠い・煙い」の三重苦を耐え忍ばなければならない祭り。それでも今なお、これほど神秘的で情熱的な祭りが続いていることは、奇跡のようでさえある。
※各神社に保存されている面(おもて)の一種で、水王・土王・火王・木王の四つ
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遠山(とおやま)の霜月(しもつき)祭り
■開催日:12月上~中旬(各地区によって異なります) ■開催地:長野県飯田市上村・南信濃各地区
■アクセス:JR飯田線飯田駅・平岡駅よりバス、乗合タクシーなど(車の場合は飯田インターから約1時間)
http://shimotsukimatsuri.com/
※日程は変更となる場合があります。また深夜に終了する所もありますので、下記サイトでご確認ください。
監修・文 久保田裕道 独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所 無形民俗文化財研究室長
著書に『日本の祭り解剖図鑑』(エクスナレッジ)、 共著に『民俗芸能探訪ガイドブック』(国書刊行会)など。