高齢化で狭小商圏化、駅前回帰が進む
人類史上で最も便利な買物環境にあったのは、2017年の日本ではないか。宅配業者は全国どこへでも低コストで荷物を運んでくれ、コンビニエンスストア(以下コンビニ)はどの店舗でもほぼ同じ品揃えを実現し、地方の山間部でも24時間営業だった。しかしその後、このような便利さは宅配ドライバーやコンビニオーナーの過剰労働に支えられていたことが明らかになった。全国一律に安価で高品質なサービスが受けられる時代が終わろうとしている。今後は地域ごとにサービスや営業時間が変わったり、付加的なサービスにはコストがかかったりするようになるだろう。
今、コンビニの時間帯別客数データを見ると、深夜帯の来店はかなり減っており、全店が24時間営業を続ける必要性は薄い。平成初期にはコンビニは若者の店で、深夜1時、2時でも来店者はそれなりに多かった。しかし現在は早朝の来店者が多く、日本の高齢化がうかがえる現象の一つだ。
高齢者は買物をするのに、700m以上歩かないと言われている。そのため、コンビニやミニスーパーのような狭小商圏の店舗は今後、強みを発揮する。今の高齢者はパソコンやスマホでの買物にも抵抗がなく、ネット通販の利用も伸びるだろう。商品の種類や消費者の好みが多様化していることもネット利用を後押ししている要因の一つで、たとえばシャンプーは、上位3ブランドのシェアが約15%、13ブランドでも約25%しかなく、実店舗では多くの消費者を満足させる品揃えが難しくなっている。
高齢化と関連して、実店舗は郊外から駅前への回帰が進み、様々な業種で駅前への出店が増えており、商店街も人が戻ってきているところがある。
「待ち」から「攻め」へ、AIで省力化・無人化も進む
日本人は今後30年間で2000万人以上減るとされており、市場縮小にどう対応するかが課題になる。コンビニはこの数年、客数は減り続けており、客単価を上げることで売上を維持してきたが、それも限界にきている。ただ店を開けて待っているだけではなく、「待ちのコンビニ」から「攻めのコンビニ」に変わってきており、Uber Eats ※やドローンを利用した宅配、高齢者への御用聞きや見守りサービスなどの取り込みを模索している。一方、フィットネスジムやコインランドリーを併設し、相乗効果で集客を図る動きもある。
コンビニをはじめとした小売業は、軽減税率制度実施後、「中食」と言われる市販の弁当や総菜など、家庭外で調理された食品に力を入れた店舗作りが増えている。
そんな中、「フードロス」が問題になり、以前は「欠品は悪」だったのが、「物を捨てるのは悪」という発想に社会全体が変わってきた。コンビニは廃棄の出にくい冷凍食品を充実させたり、節分の恵方巻やクリスマスケーキを完全予約制にしたりするなどの対応をとっている。
2040年度の社会保障費は190兆円に上り、2018年度の1. 6倍、GDPの24%を占めると予測されている。そこで、「健康増進」「予防医療」がキーワードになる。コンビニは糖質の少ないパンや麦を使ったおにぎりの商品開発、医療モールへの出店などを行っている。
深刻化する人手不足には、AIなどを活用した省力化が必要になる。米国の「Amazon Go」はAIセンサーなどを使ってレジ精算を不要にしている。日本でもローソンが夜間無人店舗の実証実験を行っており、スマホアプリのQRコードなどで入店できるシステムやセルフレジで運営している。
電子決済の普及は省力化のカギを握る。コンビニでは客数の半分ほどが電子マネーやクレジットカードを使うようになっており、現金に比べてレジ対応の時間が3分の1ほどで済む。セルフレジなら対応自体が不要だ。ファミリーマートとパナソニックは顔認証を利用した決済システムの実験を行っており、このような技術が実用化されれば、スマホのアプリを立ち上げる手間がいらなくなり、不正利用も減る。店舗の無人化・省力化にはまだ時間がかかり、それまでは外国人労働者が大きな役割を担う。都市圏のコンビニなどは、彼らなしには成り立たなくなっている。
2019年のラグビーワールドカップでは、アジアだけでなく欧米からの旅行者も増え、長期滞在して地方にも行くなどの現象が見られた。イベントとともにインバウンド消費も進化しており、今後は東京五輪や大阪万博もある。インバウンド客が7人来れば1人分の人口減をカバーできるとされており、世界に日本の良さを知ってもらうことが大事になる。
環境保護も課題だ。飲料のプラ容器を紙に変えるなどの対応が進んでいるが、今後はドリンクディスペンサーが導入され、容器は利用者が持参するようになるかもしれない。レジ袋有料化への小売業・消費者の対応はまだ不透明だが、マイバッグを持ち歩く人が増えるだろう。やや不便になる部分もあるが、社会全体がエコ志向になっていくのは間違いない。
※ Uber Eats(ウーバーイーツ):米国の配車サービス大手Uberが運営する宅配・出前サービス。スマホアプリなどから、多数の飲食店・小売店の商品が注文できる。
DtoCが新たなトレンド、有名ブランド同士のコラボが増加
今、好調な小売業の共通点を見ていくと、ユニクロ、ニトリ、ダイソーなど自社で製造を行っているSPA(製造小売業)と言われる企業が多い。コストコ、ドン・キホーテなど、日常の中に非日常を感じられるようなところも強い。
これからトレンドになりそうなのが、米国で流行っている「DtoC(Direct to Consumer)」で、製造業者がアマゾンなどのプラットフォーマーや大手小売業を通さず、直営サイトで販売する手法だ。プラットフォーマーに価格などをコントロールされることなく、ターゲットとする顧客と直接つながることができる。
ドラッグストアは高齢化が追い風になるが、大衆薬は今ネット通販でも買うことができ、規制緩和が進めばコンビニでも販売されるようになるかもしれない。ドラッグストアはスイッチOTCなどで差別化することが必要になるだろう。
メーカーは今、新しい商品ブランドを立ち上げるのが難しくなっている。増えているのは「セブン‐イレブン限定の一番搾り」「ローソン限定のハーゲンダッツ」など、特定の小売業でしか買えない商品で、私はこれらをナショナル・プライべートブランド(NPB)と命名している。さらにスポーツジムや有名飲食店などが監修した商品もあり、知名度のあるものを組み合わせる手法が目立つ。
コンビニは日本人の生活の縮図であり、環境問題や人手不足などの社会的課題にもいち早く対応する。消費者は多様化しており、変化のスピードが速くなっている。コンビニを日常的に観察することで、その変化をとらえることができるだろう。