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上海工程技術大学・特別講演抄録

現地特別リポート

日本の流通機構における物流の仕組み
多様な小売店を支える卸売業

2019年9月26日、当社代表取締役会長・玉生弘昌が上海工程技術大学で、 「日本の流通機構における物流の仕組み〜多頻度バラ物流とコールドチェーン」をテーマに講演を行った。 世界でも例を見ない高機能を有する日本の卸売業が、高品質で豊富な種類の商品流通を支えている実態を紹介した。

講演当日のサインボードより抜粋

多様な小売店が存在する日本
卸売業は隠れた大企業

2019年9月 上海工程技術大学 講堂にて

 日本を訪れる外国人観光客は観光や食だけでなく、多様な買物を楽しんでいる。数年前までは電気炊飯器などの耐久消費財が人気だったが、最近は化粧品や日用雑貨、菓子などを土産として買って帰る観光客が増えている。
 日本の消耗品や食料品が人気を集める理由は、品質がよく、種類が豊富で、安いからである。日本には多数の小売店があり、身近で便利に買物ができる。小さな店が軒を連ねる商店街も多く、小規模な店舗でも大型店とさほど変わらない価格で同じ商品を購入できる。
 なぜそうしたことが可能なのか。それは小売店とメーカーの間に卸売業があるからだ。日本には規模の大きい卸売業が多数あり、売上高2兆円を超える大企業もある。

卸売業が間に入ることで
物流コストが低減

 小売店とメーカーの間に卸売業が入ると、商品の価格が高くなると考えるかもしれない。それは流通を1対1で捉えるからで、卸売業が必要かどうかは複数対複数で考える必要がある。
 もし卸売業がなく、小売店とメーカーが直接取引をすると、企業ごとに何回も取引が発生する。だが、間に卸売業が入ることで取引回数は大幅に減り、物流にかかるコストも大きく削減できる。
卸売業がないと困る理由の一つに、納品の問題がある。小売店がたくさんの種類の商品を仕入れるために1000社のメーカーに発注したとすると、その小売店には1000台のトラックがやってくるが、それに対応することは到底不可能だ。
二つ目の理由が物流コストの問題だ。例えば、ドラッグストアやコンビニエンスストアでは1本150円ぐらいの耳かきが売られている。それをメーカーから直接仕入れると、物流コストが1本100円ぐらいかかり、150円で販売するのは難しくなる。しかし、卸売業が他メーカーの商品とまとめて運んでくれれば、物流コストは1本50円程度に下がる。
 このように、数学的に示すと、卸売業の必要性がよくわかる。卸売業は一般の目に触れる機会がないため、その役割を正しく理解している人は多くはないが、社会的有用性があるからこそ、いつの間にか大会社になって今日に至っている。

「卸売業の社会的有用性の数学的証明」(中国語版)

多品種少量を頻繁に
高い精度で配送

 卸売業の主な機能は次の四つ。まずできるだけ多くのメーカーから商品を仕入れ、品揃えの充実を図る。規模の大きい卸売業は5万社から10万社のメーカーと取引している。シャンプーなら日本で入手できるすべてのシャンプーを揃えるなど、最大限の品揃えを行い、小売店のあらゆるニーズに応える。
 二つ目に配送機能。これはたくさんの小売店に効率よく商品を運ぶ機能で、最もコストがかかる部分だ。
 三つ目が代金回収機能で、販売先が多ければ多いほど煩雑になる代金回収を代行する。
 四つ目が情報提供機能である。どんな商品が売れているかなど、小売店の様々な情報を収集し、メーカーにフィードバックする。また、小売店にはメーカーの新商品やキャンペーン情報などを伝える。
 最近の卸売業は、多くのメーカーの多種多様な商品をバラでピッキングして配送している。バラでピッキングして頻繁に発送する作業は、非常に手間がかかるのだが、卸売業は様々な工夫によって作業効率の向上とミス削減に注力しており、商品が注文通りに届く確率は99・999%という極めて高い精度を実現している。

保管から配送まで鮮度を保つ
「コールドチェーン」も発達

 「多頻度バラ物流サービス」といわれる、こうした物流体制を大規模に展開している卸売業は、世界でも日本にしかない。非常に種類が多い日本の商品をどこでも安く買うことができるのは卸売業が高度に発達しているからである。
 欧米では小売店がメーカーと直接取引し、商品の種類を絞り、大量に仕入れることでコストダウンを図ってきた。その結果、多様性が失われ、小売店の品揃えが画一的になっている。
 大型小売店による大量仕入れ・大量販売は、中小の小売店を潰すことになり、寡占化が進む。寡占化が進むと、競争が損なわれ、商品の価格が上がる。実際に欧米の価格と日本の価格を調査してみるとわかるが、日本の方が安いものが多い。また、大型小売店と取引できないメーカーは販売先を失い、淘汰され、伝統的なよい商品まで失われてしまう。
 近年、アジアにも欧米の大型小売店が進出し、大量仕入れ・大量販売を進めている。日本にも進出してきたが、日本では高い機能を持つ卸売業があり、消費者は質のよい商品を身近で安く購入できるため、成功している欧米の大型小売店はごくわずかである。
 日本では常温で商品を運ぶ物流以外に、低温や冷凍したままの商品を小売店に届ける「コールドチェーン」と呼ばれる物流サービスも発達している。保管から配送まで、つねに一定の温度を維持しなければならないため、非常に難易度の高い物流システムだが、これによって消費者は鮮度の高い食料品を手軽に入手できる。
 日本の卸売業の歴史は古く、中には300年以上の歴史を有する企業もあり、メーカーや小売店のニーズに応え続けた結果、今日のような高い機能を備えた卸売業に進化してきたといえる。