「物流思考」から「戦略物流思考」へ
(写真はイメージです)
ドライバー不足の深刻化と、EC拡大に伴う貨物の物量増大、配送の小口化・多頻度化などを背景に、物流センターや消費地にモノが円滑に届けられないケースが続出している。
今後は働き方改革の流れを反映して、物流業界においても長時間労働の是正が強く求められていく。労働環境が改善されるのは望ましいが、結果的にドライバー不足の傾向は強まると予想される。課題解決に向け、流通業界の物流改革は待ったなしである。
これまで多くの日本企業は、物流を作業(オペレーション)と捉え、そこでのコスト削減や生産性向上を図ってきた(物流思考)。しかし本来、物流はあらゆる業種の企業にとって戦略の根幹となるものだ。物流をプロフィットセンターと捉え、自社の経営戦略に合致した物流を構築し、収益向上につなげていく「戦略物流思考」の発想が求められる。物流コストをかけることで、商品単価や販売量を増やし、売上向上につなげていく。物流戦略と販売戦略を同期化することで、低コストの物流ネットワークの構築も可能になる(図表1)。すでにそうした取り組みはさまざまな業界で始まっている。
拠点分散で脱・長距離化「モーダルシフト」も進行
物流改革の代表的な動きの一つが、「脱・長距離化」である。地価や人件費を抑制できる地域に大規模な物流センターを置き、そこから全国配送する体制がかつての方式だった。しかし、長距離トラックの運賃高騰やドライバーの長時間労働の課題などから、今では物流拠点を分散し、輸送距離を短縮化する配送体制が一般化しつつある。
輸送手段をトラックから鉄道・船舶に切り替える「モーダルシフト」も利用が拡大している。フェリーを活用すれば、トラック輸送の脱・長距離化につながる上に、乗船中にドライバーが仮眠・食事などの休息時間を確保でき、労働環境が改善しCO2排出削減にも貢献することから、今後活用は一層増える可能性がある。
業種を超えて共同配送翌々日納品が活発化
複数の企業同士が連携し、従来の慣行を大幅に見直して、物流の効率化・標準化に
取り組む例もある。
この動きは日用品・食品メーカーの間で特に顕著だ。日用品業界では1989年に共同物流会社プラネット物流を設立した。同社は現在解散しているが共同配送は継続されている。
ライオン、キユーピー、日本パレットレンタルの3社は2018年8月から、異業種連携による共同配送を開始した。またキユーピーは2019年7月からサンスターとも共同配送を始めている。調味料のような重量品と、ハブラシのような軽量品を混載して輸送することでトラックの積載効率が高まり、配送回数が減らせると期待できる。
味の素やカゴメなど食品5社は2019年4月に、共同配送などに向けた新会社を設立した。各社が保有しているトラックや倉庫を相互に利用することで、効率化を図る取り組みである。新会社を通じて、物流に関する各社のノウハウを共有化することも期待できる。
さらに物流改革の事例として注目されているのが「翌日納品」から「翌々日納品」へのシフトである。
これまでメーカーから卸売業への納期は、受注の「翌日納品」だった。メーカーはその日の注文が確定してから商品を積み込むため、出荷開始は深夜になり、ドライバーの負担が大きかった。ここに中1日のリードタイムが加わることで、メーカーの出荷作業は当日深夜ではなく、翌日の日中になり、ドライバーは休息の時間を確保しやすくなる。日清食品が2018年1月に導入し、2019年には味の素やサントリー食品インターナショナルなど多数の食品メーカーが追随している。
予約システムの課題プラネットの取り組み
もう一つ、ドライバーの労働負担につながる大きな問題として、物流センターにおける待機時間がある。多くの物流センターは作業スペースが限られ、しかも荷下ろしなどは手作業によるところが多く、ドライバーが数時間もトラック内で待機するケースが多い。
この問題の対策として、荷下ろし時間の予約システムの導入が徐々に進んでいるが、それだけでは待機車両の解消には至っていない。
また仮に予約できても、検品や荷下ろし作業が効率化されていなければ、予約時間の枠内に作業が完了できないケースが出てきてしまう。
待機問題の解決にはメーカー、卸売業、物流事業者が連携して物流システムの効率化・標準化に取り組むことが不可欠である。現在、商流の情報の多くはEDIによって管理されている。ここに物流の情報を連動させ、メーカーが物流センターの処理能力を踏まえて出荷量を決められるようになれば、上述の予約システムも機能しやすくなる。消費財メーカー・卸売業の基幹EDIを運営するプラネットは、この部分で大きく貢献できる可能性がある。
プラネットは「フロア別パレタイズ納品」のEDI対応ができている。メーカーから出荷する際、物流センターのロケーションにあわせて商品ごとに異なるパレットで積載する仕組みで、これにより入庫に要する時間が減少するという。
「物流戦略の4C」と「製・配・販」連携の重要性
顧客が欲しい商品を、欲しいときに、欲しい場所で得られるように、最適な方法を考えるのが物流戦略であり、企業戦略の中核をなすものである。とはいえ日本では、物流を戦略的に考えることに慣れていない企業がまだ多い。
そこで考え方の有効なフレームワークとして、私は「物流戦略の4C」を提唱している(図表2参照)。
このフレームワークを使うことで、物流を通じて顧客にどんな利便性を与え、どれぐらいの時間で届け、どのような方法を使い、それをどれぐらいのコストで行えばいいのかを整理して考えることができる。
例えば同じファストファッションのブランドでも、ZARA(インディテックス)とユニクロ(ファーストリテイリング)では、図表3のように物流戦略は大きく違ってくる。ZARAの利便性は、「顧客の求める新しいデザインの服を早いサイクルで開発・生産し、提供すること」であり、ユニクロの場合は「高品質なベーシックデザインの服を大量生産することで、安価に提供すること」である。
おのずと物流に求められるリードタイムも違ってくる。したがってスピードを重視するZARAは、コストがかかっても物流手段として航空便を利用すべきであるし、安さを重視するユニクロは船便を選択するのが適切だと考える。
このような物流戦略は、自社だけでは成し遂げられない。「製・配・販」の連携が極めて重要である。メーカー、卸売業、物流事業者、さらには小売業が協力関係を構築し、標準化・システム化を進めていく意義は大きい。
戦略的に物流を改善していくことで、商品の価値を引き上げ、サプライチェーン全体での収益力を高めることができる。
現在の物流危機を「変革の好機」と捉え、業界全体で物流の最適化に努めていく必要がある。