小林敦・元会長が業界VAN発足に強い意欲
・小林様がライオンに入社した当時の日用品業界のEDI利用状況についてお聞かせ下さい。
- 小林
- 1987年に入社して最初に携わったのは当社のメイン商品であるトイレタリーの営業です。株式会社プラネットの発足は 85 年ですから、当時は卸店様からいただく販売店様のデータを使い始めたばかりの頃で、販売データの精度を上げている最中でした。電子化による情報活用の必要性が叫ばれ、物流の新たな取り組みが出てきた時代です。
元会長 故・小林敦氏の残したカードは、国内の一般消費財・流通業界の貴重な歴史的資料。プラネット発足前後のカードからは、業界VANへの並々ならぬ熱意が伝わってくる
今回、プラネットと当社の関わりについ てお話をするということで、父(故・小林敦氏/ライオン株式会社社長、会長を歴任)の資料を改めて読み直してみました。父はいつも、カードにスピーチの内容を箇条書きにして整理していました。プラネット発足直前の 84 年、当社と取引のある全国の卸店様で組織する「ライオン会」の会合時のカードを見ると、「システム化について。商売の仕組みと管理の仕組みのギャップを反省、前向きに充実していきたい」とあります。翌 85 年のカードには、「業界VANをつくって、その後に自動補給システムをつくりたい」「将来的には小売りも入れた情報ネットワークをつくりたい」ともあり、父は業界VAN発足に強い意欲をもっていたようです。元会長 故・小林敦氏の残したカードは、国内の一般消費財・流通業界の貴重な歴史的資料。プラネット発足前後のカードからは、業界VANへの並々ならぬ熱意が伝わってくる
在庫削減に欠かせなかったVANの機能
・小林様ご自身とプラネットとの関わりについて教えて下さい。
- 小林
- 入社後3年ほど営業に従事した後、91年から約6年間海外事業を担当し、シンガポールでの駐在も経験しました。その後、流通開発部(現在の流通政策部)に異動し、サプライチェーンマネジメントや経営指導など、様々な流通政策に携わりました。プラネットと個人的に接点ができたのはこの頃です。当時は仏カルフールや米コストコ、英ブーツといった海外流通大手の日本参入が相次いだ時で、海外経験を買われてこうした企業への対応にもあたりました。
・流通政策に携わる中で、業界VANはどのように機能していったのでしょう。
- 小林
- 多種多様なデータ種が全て標準化されているということが最大のポイントでした。その当時、在庫削減が業界の大きな課題となり、ライオンは「IMS」*と呼ぶ卸売業向けの独自の自動補給システムを導入しました。卸売業からの人為的な予測に基づく発注にたよらずに、在庫の適正水準を基にメーカーが自動的に納品することで在庫を適正化する仕組みです。プラネットの在庫データを活用したことでスムーズに導入できたのをよく覚えています。
IMSはEOS*ともつながっていました。販売店からEOSが夜間に送信されて、卸売業はそれに応じて次の日に出荷し、在庫がなくなった分をメーカーに発注する――この製配販のやり取りを自動化・機械化すれば無駄な在庫は減ります。そのためのインフラとしてプラネットの基幹EDIは欠かせない機能でした。
EDIの裾野拡大で全国行脚 人的ネットワークは今も宝
・現在、システムをご担当されている、後藤様とプラネットとの関わりについて教えて下さい。
- 後藤
- 入社後に配属されたのは研究開発部門だったので、当社の製品づくりについては把握できていました。業界でどのように製品が売られていくのか、流通の分野にも知見を深めたいとの思いから、プラネットへの出向を志望しました。2002年の8月から06年まで4年間お世話になりました。
当時、基幹EDIはすでに業界に定着し、大手卸売業とのデータ交換で業務効率化が進んでいました。その次の段階として中小規模の卸売業がWeb発注を始めた頃で、EDIの裾野を広げるため、全国各地の卸売業に接続をお願いしてまわりました。ライオンの営業担当と同行して訪問することもありました。まず「当社とEDIで業務効率化をしましょう」とライオンの営業担当者に口火を切ってもらい、私はプラネットの立場として「ライオンだけでなく、A社さんにも、B社さんにも発注できますよ」と複数メーカーへの取引が一元化できることをお薦めしていました。
・プラネット出向で得られたものは何でしょうか。
- 後藤
- 卸売業の皆さんが、ライオンを「正味で」どう評価しているかを知り、客観的に自社を見られるようになりました。
ライオンに戻ってからもプラネットでの経験は生きています。プラネットが提供するサービス内容を踏まえて、適切な社内システムの方向性を提案できました。
出向当時は、ライオンの競合メーカーを訪問する機会も少なくありませんでした。その頃に知り合った各社のシステム担当の方々とは、今も変わらず交流をさせていただいています。
2017年8月の発売以来、好評を博しているライオンの口臭ケアブランド「NONIO(ノニオ)」。スマホで撮影した舌の写真による口臭リスクの判定や笑顔チェックを行うウェブ上のサービス「NONIOMIRROR(ノニオミラー)」も展開している
他業界のEDI推進の呼び水に 日本独自の流通の進化に貢献
・小林様は日本の流通におけるプラネットの存在をどう評価されていますか。
- 小林
- 情報システムや物流システムは、日本の生活者の高い要求とニーズの多様化、さらには生鮮品を中心とする日本独自の食文化の維持に大きく貢献しました。その意味で、いち早く業界VANを立ち上げ、食品をはじめとする他業界のEDIの呼び水にもなったプラネットの存在意義は大きいと言えます。もしこうした対応がなければ、海外流通大手が台頭し、大量消費を背景に、全国均一のブランドやニーズ、生活様式が優先され、日本独自の地方色や個々のニーズは埋没していったでしょう。
欧米で流通・物流システムの高度化を主導してきたのは小売業であるケースが多い中、誕生の起点がメーカー・卸売業間のEDIであるプラネットが中心だったことは、業界全体の情報・物流システムの効率化によって結果的に生活者への多様な品揃えの提案につながりました。
情報システムの高度化は、日本の生活者の洗練されたニーズにきめ細かく対応するメーカーのマーケティングにも寄与し、日本のメーカーが市場において存在感を発揮しています。同時に、情報を武器に卸売業も独自性・差別性を確保し、小売業もドラッグストアやコンビニエンスストアといった、独特の業態の進化につながったと思います。
プラネットのコンセプト、創業のタイミングとその後の進化は、一流通VANの役割にとどまらず、日本独自の流通の進化、生活者起点での価値提案を可能にする環境づくりに大いに役立ったと考えています。「クリニカアドバンテージNEXT STAGE ハミガキ」(2019年2月発売)。残存歯の増加に伴う「大人ムシ歯」の予防をサポートする。「バファリンライト」とともに、今年の重点施策に掲げる「高付加価値品の創出・育成」を反映した商品
解熱鎮痛剤「バファリンライト」(2019年3月発売)。効き目がひかえめで胃にやさしいのが特徴。解熱鎮痛薬市場における「高機能品カテゴリー」の伸長を受け、胃への負担などから鎮痛薬服用を我慢している層に向けて開発
プラネット保有データの価値 業界を超え社会インフラへ
・今後のプラネットに期待することをお聞かせ下さい。
- 後藤
- 先達がどのような思いでプラネットを立ち上げたのか、どのような価値を業界に提供しているのか。これを肌身で知る世代は我々が最後かもしれません。プラネットのサービスは安定しているがゆえに、若い世代にとっては「あって当たり前」になりつつあります。業界VANやEDI発足の精神を次世代にどう引き継ぐのか。プラネットにはそういった人材育成や人材交流の場としても期待しています。
・小林様はいかがでしょうか。
- 小林
- モバイル化や「One to One」でデリバリーするECの登場は無視できません。ECの台頭により、生活者の買い方が進化・多様化しています。また、インバウンドのように突然、お客様が増えるということも起こっています。
こうした変化の中、従来の販売データ単体でなく、商品がどこにあるかという「位置データ」と、商品がいつ移動したかという「時間データ」を組み合わせた情報が極めて重要になると考えています。プラネットが保有するデータを見れば、世の中のほぼすべての日用品・化粧品メーカーの取引がリアルにわかります。これに物流データが加われば、トラックを適切に配車して積載効率を100%に近づけるなど、サプライチェーンの物流を劇的に効率化でき、物流費の削減のみならず、CO2排出の抑制にもなります。
当社は食品メーカーのキユーピー株式会社などとトレーラーやフェリーを使った共同幹線輸送に取り組んでおり、国はこうした共同輸送やモーダルシフトの取り組みを後押ししています。住みよい社会をつくるために業界が協力する価値は大きいと思います。プラネットには、「業界のインフラ」にとどまらない「社会のインフラ」を目指してほしい。クラウド技術が登場し、AIによる計算処理スピードはかつてと比較にならないほど速くなっています。技術革新によってプラネットが社会のインフラへとステップアップする現実性は高まっているはずです。
取締役 上席執行役員
小林 健二郎(こばやし けんじろう)/写真右
1987年、ライオン株式会社に入社。2004年に執行役員、2010年に上席執行役員、2012年に取締役に就任。この間にオーラルケア事業部長、国際事業本部長などを歴任。現職は企業倫理担当、人事総務本部分担、秘書部、CSV推進部、統合システム部、コーポレートコミュニケーションセンター、BPR推進部担当。
統合システム部 副主席部員
後藤 一意(ごとう かずおき)/写真左
1987年、ライオン株式会社に入社。研究開発部門での勤務を経て、2002年に株式会社プラネットに出向。2006年にライオンに帰任し、業務推進部を経て2007年より現職。
■ライオン株式会社
代 表 者/代表取締役 社長執行役員 掬川 正純
創 業/1891年(明治24年)
創 立/1918年(大正7年)
本 社/東京都墨田区本所1-3-7
従業員数/6,941名(2018年12月31日時点)