劇的に変わる消費財流通の環境
消費財流通を取り巻く環境は劇的に変わっている。テクノロジーとデジタル技術の進化は予想を超え、夢物語ではない現実がある。自動運転、ドローン宅配、決済の自動化、ICタグの活用、オムニチャネルの推進など革新の範囲は広い。流通の姿を予測し、将来を起点として、今何をすべきかを考えてみることも大切だ。
日本は少子高齢化を他国よりも早く経験する。2020年には認知症高齢者が400万人を超え、2023年には団塊の世代が75歳を迎える。医療技術の進歩で人生は100年時代になると言われているが、高齢者世帯の増加は確実に進み消費財流通に大きな影響を与える。また人口の都市移動の動きは続き、地方ではコンパクトシティ*の動きが加速する。小売店が提供する商品は小サイズ・小ロット化し、宅配や移動販売なども新しい形が出てくるだろう。
医療や福祉に関わるコストは膨らむため、それぞれの在宅化が進み、国民全体で支えることになる。介護や看護、育児をしながら働く人はさらに増え、生活において時間が最も貴重な資源になる。国は女性の就業率を2023年には80%にするという目標を掲げ、働く環境の整備が進む。
*コンパクトシティ:中心部にさまざまな機能を集約し、市街地をコンパクトな規模に収めた都市形態
新しい価値の提供は「モノ」から「コト」へ
生活者のニーズは「時短」、日常の商品購入や家事労働にはできるだけ時間や労力をかけたくないというライフスタイルが中心になる。食事の支度や掃除洗濯などの家事労働をアウトソーシングすることは日常化する。個食・簡便、パーソナル消費に合わせた商品、時短日用品・サービスの提供は大きな流れになる。新しい価値を提供するためには商品(モノ)だけでなくソフト(コト)と組み合わせて提供していくことが求められる。受発注システムの合理化に始まり、データを活用した商品開発や個別のメニューを提供するマーケティング力、品質を高めるためのコールドチェーンなどのシステムを製配販が連携して取り組むような事例が増えていくはずだ。
加速する流通業の省力化システムへの投資
このままいくと2025年には583万人の労働力が不足すると予測されている。流通業での省力化システムへの投資は進み、ICタグを無線自動識別するRFIDシステムを使うウオークスルー型の無人決済やAIで動くことを想定したバーチャル店員なども実用化していく。経産省は2025年、コンビニ電子タグを1000億枚にすることを目標にしており、産業界を挙げた取り組みを行っていく。RFIDシステムは決済や在庫管理や棚卸の店頭業務だけでなく配送業務などのサプライチェーン全体で活用される。将来的には家庭の商品在庫がICタグで自動登録され、必要な買物リストが出力されたり、必要な商品が自動的に注文されて届けられるというようなシステムが開発されるだろう。あらゆるものがネットにつながるIoTが消費者の購買行動を大きく変えていく。
一部の店舗ではスマートカメラ(AIカメラ)付き店舗や、商品棚の陳列状況や来店客の商品への接触度を把握し分析するAI活用の実験が始まった。AIがカメラという目を持つことによりPOSデータではわからない顧客行動を理解しようということだ。探索や知識処理が進化し、機械学習や深層学習という技術を流通企業で活用していくことが計画されている。物流ではドローン(小型無人機)を使った自動物流システムが開発され、あらかじめプログラムされた航路に沿ってドローンが飛行し、目的地まで荷物を運ぶようになる。過疎地における買物難民対策に寄与することになる。
これからが本番、進化するオムニチャネル
オムニチャネルは重要なテーマでありながら、まだまだ成果を上げている実例は少なく、これからが本番。リアル店舗、オンライン店舗の双方が連動して価値を高めていく。単一な顧客接点・販売チャネルであるシングルチャネルから、マルチチャネル、クロスチャネル、シームレスな顧客接点と販売チャネルを持つオムニチャネルへと進化していく。顧客の情報を一元管理しパーソナライゼーション、デジタルマーケティングが高度化する。Amazonが実験するリアル店舗「アマゾン・ゴー」はAmazonのアカウントと連動しており、スマホのアプリをかざして入店、購入する商品を自由に選び自動で精算することができるハイテク店舗だ。Amazonが得意とするオンライン上のデータだけでは消費者の行動を理解することはできないので、オンラインとリアルをテクノロジーによって融合させ、顧客の理解を深め、パーソナルなマーケティングを進化させていこうということだ。
リアル店舗を持つ小売業は地域/生活拠点のアンカー
ただし店から人間が必要でなくなるわけではない。リアルな接客は今後も必要で、さらに人間にしかできないサービスが求められていく。店員と顧客との対話や交流の中で、「コト」の要素や「心」が入ることによって、顧客とのパーソナルな関係を作っていく。人が関わることによって店舗における顧客の体験や経験価値を高め、コミュニティや愛着、顧客とのつながりを深めていく。顧客データを取得するための競争が激化しているが、データを持っただけでは意味がなく、データを生かすためにどのようなビジネスモデルを設計するかが問われていくだろう。
リアル店舗を持つ小売業は、店舗の存在が社会的なインフラとしての役割も高め、地域の人たちが集いやすく、フレンドリーなコミュニティ機能を持ち、あらゆる地域情報や顧客が持つ情報が交流しあうような役割を担う。行政との関係も深め、行政機能の代替や福祉サービスの一部の機能を取り込んでいく。地域の生活拠点のアンカーとなるような店舗は今後も消えてなくなりはしない。
社会的な課題解決に向けて消費財流通のイノベーションに期待
イノベーションとは技術革新と訳される。時代と共に意味は変化し「異なる形の経営資源が結びついて新しい価値を生むこと」と解釈されるようになってきた。プラネットは情報インフラサービスを安全、中立、標準、継続、安価をモットーに運用センター型のEDIを提供し、消費財流通に大きな合理化の効果をもたらした。社会的な課題を複数の企業との協調で解決した消費財流通のイノベーションの事例だ。今後の流通業はハードとソフトが組み合わされ、従来とは異なる形で連携が進み技術や知恵が結びついていく。イノベーションがモノからコトへ移行していく競争になる。
ビッグデータやデータベースにテクノロジーを掛け合わせ、そこに参加する人たちの共通の想いを実現していく。その想いは社会的な課題を解決していくことであることは不変原則だ。同じ風土からは調和圧力が働き、なかなか新しいものは生まれてこない。異なった視点を持つメンバーが創発しあう場づくりが重要で、しかもそれぞれが主体的に参加することがポイントになる。この時代の大きな変化に好奇心を持ち続け、絶え間ないイノベーションで成長し続ける消費財流通の未来に期待したい。