ウォルマートに呑みこまれる世界 (チャールズ・フィッシュマン著、ダイヤモンド社)
ウォルマートは人類史上最大の企業である。売上高2600億ドル、従業員数130万人。この巨大企業は、ウォルマート・イフェクトと呼ばれる様々な社会的影響をもたらしている。
EDLP(Every Day Low Price)を掲げ、大量の商品を安く提供し続けていることは大きな社会的貢献であるが、1990年代からウォルマートが進出した地域では、地場の小売業を淘汰し、地域の荒廃を招いているとの批判が出ていた。
近年、ウォルマート従業員の多くの家族が貧困層向けの健康保険を受給していたこと、違法な就労者を多数使っていたことなどが発覚し、様々な議論が巻き起っている。これまで口が重かった納入業者側からも問題指摘の声が上がってきた。
「もうずっと何年も中味の変わらない商品については、ウォルマートは毎年5パーセントずつ価格を引き下げる方針を持っている」という強力な値下げ要求を受けている業者は、コストが高い国内工場を閉鎖して海外に工場移転を進める。その結果、品質の低下や国内製造業の空洞化を招き、また海外工場では劣悪な環境の中で労働者の搾取が進む。
本書では、全米労働者委員会の招きでバングラディッシュの工場の労働者が全米各地で講演したことを紹介している。安い賃金による長時間労働、ノルマを達成させるための暴力などが語られた。著者は「この工場をそのまま米国にもって来たら、合法的といえるだろうか」と疑問を呈している。
納入業者の利益はウォルマートとの取引が増えるほど悪化するという驚くべき研究リポートも紹介されている。150年続いているジーンズのメーカー“リーバイス”はウォルマートとの取引を開始したところ、売り上げは増えたものの安くて平凡な製品を作らざるをえず、利益は低迷を続けている。そして、“リーバイス”らしさを失っていった。
ウォルマートの本社はつつましい建物であることは有名だが、「質素倹約」がウォルマートの本質である。その「質素倹約」を周辺に広めることで、貧困を招いているのではないかという研究リポートも紹介している。
米国においては開拓時代から「質素倹約」は美徳であるが、とてつもない巨大企業となったウォルマートの「質素倹約」は負のウォルマート・イフェクトをもたらしている。ウォルマートが良いか悪いかを論じることは、自動車が良いか悪いかを論じることと同じである。自動車の普及とともに交通ルールが定められたように、ウォルマートにもあらたなルールが必要だと結論付けている。