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玉生弘昌(名誉会長)の読書

「公益」資本主義 (原丈人著、文春新書)

 原丈人の著書としては『増補 21世紀の国富論』を取り上げたことがあるが、今回の『「公益」資本主義』は原が主張していることが、分かり易くまとめられている。ぜひ多くの人に読んでもらいたい本である。

 現代の世界の経済体制は資本主義が大勢を占めているが、金融世界が力を持つにつれ、いわゆる“株主資本主義”といわれる歪められたものになっている。“株主資本主義”は、投資家が有利になるような仕組みとなっていて、資本家がますます大きな富を得て、労働者は貧困のまま固定化するという社会をもたらす。また、株主が力を持つと、企業の資産が蝕まれ、企業の存続をも危うくすることもある。それは、「会社は株主のモノ」という誤った考え方によるものであると、原は本書で明言している。

 確かに、「会社は株主のモノ」という考えに基づいた、四半期決算、社外取締役、ストックオプションなど、株主による企業支配強化の仕組みが少しずつ導入され、次第に“株主資本主義”が定着したように見える。

 アメリカン航空が、経営危機に陥った時に、経営陣は340億円の給与削減を実施し、業績が回復したら、経営陣は200億円ものボーナスを受け取ったことを何度も例に挙げ、「会社は株主のモノ」であるいう考えがいかに倒錯したものであるかを、原は強調している。

 日本でも、ホリエモンが登場したころには、「会社は株主のモノ」ではないなどと言うと、周囲から批判を浴びるという風潮だった。最近の日本では、会社は公器であり、会社が株主のものであるはずはないと公言する人が増えてきているが、アメリカではいまだに、このようなことを言うと、お前は共産主義かと白い目で見られるということである。

 「株主になったばかりの“にわか株主”は、事業を支えようとは思っていない。彼らは、値上がりしそうで儲かりそうな会社の株を見つけて投資をしているだけで、その会社の社会的な使命感を共有しているわけではない。したがって、長期保有株主と短期保有株主とでは、差をつけた方がいい」とは、原の以前からの主張である。

 原は、公益資本主義とは「企業の事業を通じて、公益に貢献すること」と定義し、四半期決算の廃止、ストックオプションの廃止、株主優遇制度と同程度の従業員へのボーナスなど、多くの提案を記述している。原は、いくつかの会社を立ち上げ、株式公開した経験を持っているが、実際にこうした経験をしないと気が付かない行き届いた提案である。

 近頃は、原の公益資本主義以外にも、多くの資本主義改革案が提唱されているが、原の提案がもっとも優れていると思われる。実現可能性を配慮しているし、世界も視野に入れている。会社法や金融商品取引法を改正するなど、まず日本から変えていきたいものである。何かできることがあれば、協力したいものである。

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