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玉生弘昌(名誉会長)の読書

人は放射線になぜ弱いか (近藤 宗平著、講談社ブルーバックス)

 書店に行くと、“放射能本”が溢れている。専門家の間でも諸説があり、ナニが本当かよくわからない。早速、何冊か買い求めて読み比べてみた。買い込んだ本は、①「原子爆弾」山田克哉、②「原発とプルトニウム」常石敬一、③「放射線の話」大朏博善、④「人は放射線になぜ弱いか」近藤宗平の4冊である。

 ①「原子爆弾」は原爆がどのように開発されたかを原子物理学の進歩と政治的な経緯などを織り交ぜて記述した本で、それなりの力作ではあるが、今般の福島原発事故を知るための内容ではない。

 ②「原発とプルトニウム」は、原子物理学の進歩を解説し、どのようにして原爆が出来上がったか、そして、戦後平和利用がいかにして進んできたかを記述している。最後の章で日本が国策として推し進めている核燃料サイクル計画は、まだまだ多くの困難が伴うことと大量に積み上がるプルトニウムの危険性を指摘している。悪い本ではないが、これもいま知りたいことを教えてくれる本ではない。

 ③「放射線の話」大朏博善は、放射線の発生原理とその影響について非常にわかりやすく解説している。放射線傷害だけではなく、放射線のホルミシス効果(放射線を発しているラジュウム温泉などによる健康増進効果)など有益なこともあり、むやみに恐れるべきではないことがわかる。

 いま、読むとしたら④「人は放射線になぜ弱いか」近藤宗平をお勧めしたい。近藤氏は放射線医学の第一人者らしくきわめて科学的に分析している。近藤氏は、自らも被曝者で、京都大学で物理学を学んだ後、遺伝学・基礎医学に転進し、生涯をかけて放射線医学に取り組んでいる真摯な学者である。読んでみると、表題に反して人間は放射能にケッコウ強いことがわかる。放射線で傷ついたDNAがどのように補修されるか、補修に失敗し異常細胞が生じてしまった場合、どのようにその細胞が排除されるかが、少々難解だが詳しく書かれている。

 日本では、長崎や広島において残留放射能があり、アメリカなどによる太平洋での原爆実験や中国のゴビ砂漠で行われた核実験によって放射性物質が飛来し、環境放射能が高まっていた時期もあった。また、空からは常時宇宙線が降り注いでいて人体に当たっているし、花崗岩などからも微量な放射線が出ている。つまり、地球上の環境においては放射線がゼロという状態はないのである。また、いま問題になっている放射性セシウムは、夜光塗料の原料として用いられ腕時計の文字盤に塗られていた物質である。腕につけていても問題がないセシウムも体内に入ると障害を起こす可能性があるため、現在は禁止されている。要は、体内に入れて体内被曝を起こさないことである。

 今日、福島の事故によって放射性物質が環境に飛散し問題になっているが、現時点では、原発周辺以外では心配するレベルではないようだ。正しい知識と情報によって、適切に対応するのが望ましい。

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