スーパーマーケットほど素敵な商売はない (安土 敏著、ダイヤモンド社)
安土敏、本名荒井伸也氏はサミットストア(現サミット株式会社)の社長だった方だが、伊丹十三監督の映画「スーパーの女」元になった「小説スーパーマーケット」の作者であることでも有名である。
私事で恐縮だが、荒井伸也氏は、学生時代に参加していた同好会の友人の兄上であることが実に四十数年を経て判明し、近頃は親しくお付き合いさせていただいている。
接してみると、極めて聡明な人物であることがよく分かる。流通業界では、様々な試みが行われ、中に首をかしげざるをえないようなものも見受けられるのだが、氏の試みは十分な洞察に基づいた合理性の高い施策であり、その結果サミットを成功に導いたことは、まさにこの人物であったからこそ、と思わせる。氏の理論は筋の通った体系となり、著作「日本スーパーマーケット原論」(すばる出版)はスーパーマーケット業界の教科書となっている。
ときおり、優越的地位を発揮することに熱心な小売業が見受けられるが、氏は、小売業は消費者の良質な生活を支える社会的機構であるとの考え方に立ち、社会的責任を意識している。「ウォルマートに呑みこまれる世界」(ダイヤモンド社)を推奨し、エブリデイロープライス(EDLP)を推し進めるウォルマートの問題点を指摘。「このような低価格至上主義の小売業によって、製造業が窒息死さられ、日本の消費者が不幸になるようなことは、絶対に避けなければならない」と述べている。小売業が大型化し、大きなバイイングパワーを発揮し、商品価格を下げることは消費者にとっていいことだという近代流通論義にも批判的である。欧米のような寡占化した小売業は、画一化をもたらし、消費者の買い物行動に一定の制約をもたらし、商品の多様性も損なわれることになる恐れがあるからである。
近頃、大型化した小売業はプライベートブランド(PB)をつくることに熱心であるが、これについても論評を加え、日本の製造業は高度な専門的研究の結果、優れた商品をつくっていて、「流通業がメーカーを支配できるなどと言うのは幻想だ」と明言している。
ただし、PBを小売業が作るべきなのは、メーカーが作りたがらないような商品を、消費者の利便性から小売業がメーカーに作らせる場合、技術力はあるが、大手メーカーの陰に隠れて世に出られないようなメーカーにPBを作らせる場合、などいくつかの条件をあげている。近頃、PB論義が盛んであるが、大いに参考になる記述である。
流通業界に働く人にとっては、必読の書のひとつである。