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玉生弘昌(元会長)の読書

格差はつくられた (ポール・クルーグマン(著) 三上義一(訳)、早川書房)

 日本人の多くが抱いているアメリカのイメージは、多くの中産階級が豊かな生活している姿である。しかし、そのイメージとは裏腹に格差がない平等な時代は第二次世界大戦後の一時代にすぎず、それはニューディール政策によって作られたものと論じている。

 ”大恐慌=The Great Depression”を治めるためにケインズとルーズベルト大統領によって展開されたニューディール政策は、富裕層に多く課税し、労働組合を優遇することによって、格差を大幅に圧縮した。後年、アメリカの歴史家によって”大圧縮=The Great Compression”と呼ばれた時代である。

 アメリカの繁栄をもたらしたこの大圧縮であるが、それを喜ばない保守的で裕福な白人達は、保守派ムーブメントを展開し、富裕層に有利な政策を政府に求め、運動をする。そして、1980年、レーガン大統領によって実現に向かう。レーガンは人気のある大統領であったが、「保守ムーブメント」派の期待に沿って、富裕層に対する税の優遇、健康保険の制限、貧困層の福祉予算の削減など格差の種をまいた。レーガンは人種差別撤廃に積極的ではなかったし黒人の貧困層に福祉を施すことは拒否をし、白人富裕層に有利な政策を続けた。さらに、ブッシュ政権でも格差拡大を助長する政策が続き、アメリカの格差社会がよみがえった。

 すなわち、格差圧縮はニューディールという人為的な政策によって実現したが、格差拡大も作られたものだというのがクルーグマンの本書における主張である。

 ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマンは、ブッシュ大統領の政策に批判的な論者として有名である。アメリカの経済学者間の論争は、かなり激しいものがある。

 ケインズのニューディール政策が、アメリカに平等と繁栄をもたらしたと考えられるわけであるが、「保守ムーブメント」の意向を受けたレーガン政権の御用学者は「ケインズは死んだ」とまで言ったのである。

 近年のブッシュ共和党の政策の基本原理を提供したネオリベラリズム(新自由主義)による「小さな政府・減税・民営化・規制緩和・金融自由化・グローバル化」は、格差をさらに拡大させた。その中心的人物と知られているフリードマンに対しスティグリッツやクルーグマンらが仕掛けたノーベル賞経済学者同士の大論争は後世に語り継がれるに違いない。

 クルーグマンは主としてハーバード・ビジネス・レビューに投稿しているが、その投稿論文を解説付きで翻訳した本「クルーグマンの視座」ダイヤモンド社も合わせて読むことをお勧めしたい。

 なお、クルーグマンの主張は民主党のオバマの登場をもたらしたとの評価が広まっている。いま押さえておくべき経済学者である。

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