「経済戦勝国」 日本の底力 (長谷川慶太郎著、出版文化社)
長谷川慶太郎には数え切れないほどの著作がある。私も、30~40冊ほど読んでいると思う。長谷川の本が読まれるのは、悲観的な論調が蔓延する中でも、いつも明るい見通しを提示してくれるからであろう。時には、本当に明るいのだろうかと思うこともあるが、不思議と手にとってみたくなる。
さて、本書では、世界はデフレ基調にあるとし、一時的な原油の高騰などに惑わされてはいけないと論じている。インフレは戦争によって起こり、デフレは平和によってもたらされると記述されている。
私の勉強不足かもしれないが、デフレは平和によってもたらされると述べているのは長谷川だけではないかと思われる。もしそうなら、けだし卓見である。(この件について、長谷川は本書で初めて述べているのではなく、従前の本でも記述している)
いま格差をもたらした元凶だと批判が強まっているネオリベラリズムのマネタリストたちは「インフレは貨幣の現象」であると断言していた。といいながら、アメリカも日本も貨幣の供給をむやみに増やしたのだが、インフレは起こらなかった。それは、金融世界が膨大な貨幣を吸収したからであるが、ネオリベラリストは金融市場の自由化を進め、巨大な金の渦を作り出し、その結果世界金融危機をもたらした。しかし、その底流には平和が続いているという環境があったのだと理解することができる。
戦争は相手の供給能力を破壊し合うものだから、戦後は供給不足が起こりインフレになる。平和であれば供給力は蓄積され需要を上回るものになる。
今の日本でも、メーカーの工場に多数の高性能製造装置が低い稼働状況で鎮座しているのを見ると、デフレはいつまでも続くのではないかと思わざるをえない。
世界金融危機によって引き起こされた世界大不況も徐々に回復基調にあるが、本書は、その課程で世界各国おいてインフラの整備が進み、日本のインフラ建設技術が必ず求められるようになると指摘している。まず、原子力発電所が見直されているが、それを建設できる技術は日本にしか残されていない。シベリア鉄道の高速化、パナマ運河の拡張工事、いずれも日本の技術が必要とされているのだと、明るい見方を披瀝している。
長谷川の本の面白さは、ロイズとかシティの情報がちりばめられていて、一般には知ることが難しい情報を得ることができること、また 更に非常に古い情報、本書ではスエズ運河とパナマ運河がどのような国際状況の中で作られたかという知識を得ることができることだろう。何か少し勉強になったという気がする。