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玉生弘昌(名誉会長)の読書

ラストワンマイル (楡周平著、新潮社)

 楡周平は、ハードボイルドの小説家である。1996年に「Cの福音」がいきなりベストセラーになると言う衝撃的デビューをした。

 その楡周平が、近頃は元商社マンとしての経験を活かして経済小説をいくつか発表している。

 本作品は、新興のIT会社が民放テレビ局に買収を仕掛けると言う、実際にあった事件を下敷きにしている。

 物語としては、大手宅配業“暁星運輸”が業界No.2のコンビニ“ピットイン”から法外な要求を受けるところから始まる。そして、更にNo.1のコンビニも同様な要求を突き付けて来る。

 追い討ちをかけるように、ネット販売の最大手“蚤の市”までも、独占委託を解消して郵政と競争するよう要求してきた。

 “蚤の市”がまだ小さなベンチャーだったころから、“暁星運輸”は面倒を見てきたにもかかわらず、急成長して力を持つようになると、手のひらを反すように高圧的に出て来たことに悔しい思いをした担当営業“横沢哲夫”は、苦悩する。

 一方、波に乗る“蚤の市”は、突然“極東テレビ”の株式を大量に取得したことを発表し、買収を仕掛ける。

 横沢は、親しい仲間を集めて起死回生の策を練り始める。

 買収を仕掛けられた“極東テレビ”と提携して、もっと売れるネット通販サービスを利用料金無料で始めると言う計画案を考えだす。“暁星運輸”は手数料で儲けず配送を独占することで稼ごうという目論見である。

 これによって、手数料収入で大きな利益を上げている“蚤の市”に打撃を与えようと言うわけである。

 クライマックスは“暁星運輸”と“極東テレビ”による共同記事会見である。“蚤の市”の急所を突くこの作戦はマスコミにウケ、大きく報じられる。その結果、“蚤の市”の株価が急落する。資金調達が厳しくなった“蚤の市”は遂に“極東テレビ”の買収を諦めるのである。

 物品販売では“ラストワンマイル”を握るものが一番強いと言うわけである。

 書評のルールに反して粗筋を紹介してしまったが、本書は出版後2年ほど経っているので、ご容赦いただきたい。

 リアルビジネスで堅実に仕事をしてきた者にとっては、痛快なストーリーである。休日にテラスでくつろぎながら、お読みいただきたい。

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