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玉生弘昌(名誉会長)の読書

世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す (ジョセフ・E・スティグリッツ著、徳間書店)

 ノーベル賞を受賞した経済学者スティグリッツは、貿易自由化・金融自由化の美名の下にグローバル化を浸透させたことが、世界の地域間に大きな格差を生み出したとを本書で論じている。

 典型的な例として、大きな期待を持って締結されたNAFTA(米国、メキシコ、カナダの自由貿易協定)は、10年を経てメキシコの停滞をもたらしたと指摘し、準備の整っていない発展途上国に市場開放や規制緩和を強制しても、一時的な資本の流入はあるものの、むしろそれが国富の簒奪(さんだつ)を招き、その後の停滞をもたらすと説いている。

 一方、グローバル化を讃えている本とも言えるアメリカの大ベストセラー「フラット化する世界」(トーマス・フリードマン)に、著者は苦言を呈している。 「グローバル化とテクノロジーが世界をフラット化させ、公平な競争の場が創設されたために、先進国と途上国は対等な立場で競争できるようになった」と「フラット化する世界」には記されているが、それは大きな誤りだと。むしろ世界は逆フラット化していると批判している。

 「フラット化する世界」の著者 T.フリードマンは活動的なジャーナリストとして、インド、中国、韓国、日本などの様々な先進的事象を紹介し、無邪気にその進歩のすごさをレポートしている。270キロで疾走する新幹線の中でワシントンの最新情報を検索できる日本のインフラを驚きを持って書くなど、読者の好奇心を満足させる楽天的な本だともいえる。

 「フラット化する世界」は冒頭でインドのバンガロールに多くのグローバル企業のビルがそびえ立っていることを礼賛しているが、スティグリッツの方は同じくバンガロールの周辺に低所得の農民が多数暮らしていることに目を向ける。

 スティグリッツはグローバル化の中で、ある程度の恩恵に浴したのは教育投資をしていた国、国民の貯蓄率が高く国内で資本調達ができる国、インフラが整備されている国だという。すなわちインドや東アジアの国のみで、他の多くの発展途上国(アフリカと中南米諸国)は国富の流出と格差拡大を招いていると説明している。

 世界銀行の副頭取でもあったスティグリッツは、世界銀行・IMF・アメリカ財務省によるワシントン・コンセンサス(小さな政府・規制緩和・自由化・民営化が好ましいことであるという共通認識)によって、世銀やIMFが途上国に資金の融資をする際に、市場開放・貿易自由化・金融市場の開放などの条件を付けたことは、競争の不平等をもたらし、格差拡大を招いてしまったと見る。また、これらの条件が国内改革を阻み、政府の信用を損ない、政情不安に至ることまであると指摘している。

 さらに、グローバルルールで勝ちを占めたグローバル企業は、他国を省みることがないため、時には好ましからざる方法で資源を収奪したり、大きな環境汚染を引き起こしたりしている点にも憂慮している。まさに「フラット化する世界」の礼賛とは対照的な本であり、合わせて読んでみるのもよいかもしれない。

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