さらばアメリカ (大前研一著、小学館)
大前研一氏は、本当に「アメリカ」に愛想を尽かしたようだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)に留学し、外資系のコンサルタント会社の代表をしていた大前氏は、それなりの“米国かぶれ”であったように記憶しているが、近頃の身勝手さには限界を感じるようになったのだろう。
ブッシュ前大統領によるイラク戦争は、国連をないがしろにした行いであった。フランスを始めとした多くの国が反対あるいは懸念を表明しているなかで強行した。大量破壊兵器があるという理由でフセイン政権を倒したが、実際には大量破壊兵器はなかったことが後に明らかになる。
米国は第一次世界大戦も第二次大戦も、さらには第三次とも言うべき冷戦でも勝利し、唯一の超大国となった。合衆国である米国は、常に“敵”を持たないとまとまりを保てない国である。
冷戦時代の敵であったソ連が崩壊し、中国も改革・開放が始まり、敵がいなくなった時に2001年9月11日の同時多発テロが起こった。米国は次なる敵を見出したのである。
それからの旗印は「テロとの戦い」となり、教条的な価値観をもって「グローバル・コップ(世界の警察官)」の役割を演じようとした。その結果、世界の困りモノになる。
米国に歯止めがかからなくなったのは、マスコミが変貌してしまったからだと大前氏は指摘している。9・11以来、米マスコミは米国第一主義に凝り固まり、非常に驕りが目立つ論調に染まり始めたという。9・11後、「フセインはけしからん」「軍事的な攻撃を辞さず」と言う世論が実に93%にもなった。かつての寛容な大国はどこに行ったのだろうかと、大前氏は嘆いている。
リーマンショック以降はドルの凋落が始まり、ユーロが次なる基軸通貨として評価を得るようになると大前氏はみる。いずれ世界の準備通貨はドルが50%、ユーロが35%になると分析している。
本書は終盤の方になると各章のつながりに筋が見出せなくなるが、多くの要人と付き合いがあり世界の情報に通じた大前氏らしさが出ている点は評価できる。最後の章で、米国は「世界に対して謝り、世界の一員になり、戦争と決別する」べきだと結んでいる。世界は変わりつつあることを深く理解させる一冊である。