崩壊する世界、繁栄する日本 (三橋貴明著、扶桑社)
昨年のリーマンショック以来、経済を巡る議論が交錯している。世界金融の崩壊が実体経済を停滞させているが、日本についてはサブプライムローン問題の影響は少ないと言われていた。しかし、トヨタ自動車をはじめとする輸出企業の売り上げが激減し、その下請け企業はさらに増幅した影響を被った。輸出がダメだと、日本経済は破綻するという極端な議論さえある。
しかし、本書の著者の三橋貴明氏は、日本は輸出依存国家ではないと指摘する。国内総生産(GDP)に対する輸出高の比率は日本が15.5%なのに対し、韓国は38.8%、中国は37.4%、ドイツは40.0%と2倍以上高い。少々輸出が減っても、国内消費が堅調であれば、経済状況は安定的に推移すると論じる。
また、日本は債権大国であり海外から受け取る配当・利子は年々増え続けている。財政赤字も、国債の引受先のほとんどが国内で、海外に依存しているわけではないとも述べている。
三橋氏は2007年に出版した「本当はヤバイ!韓国経済」(彩図社)で韓国経済を分析し、注目された。本書では、世界には様々な国家モデルがあるとし、そのモデル次第で経済危機の影響が異なることを国別に分析している。
まず、もっとも悲惨な影響を被った国はアイスランドである。タラを中心とする漁業の国だったが、金融立国を志し、国内金利を引き上げ、外国資本を呼び込んだ。この外国資本を元手に経済成長を果たし、通貨アイスランドクローナの相場が上昇、一時は1人当りGDPを世界第3位にまで高めるという“素晴らしい”国家モデルであった。しかし、金融危機によりアイスランドクローナは暴落して対外債務が急増し、経済破綻どころか国家破綻の可能性もある。
イギリスも似たような国家モデルを選択している。ポンド高へ誘導し、金融市場を開放し、ウインブルドン現象などと言われながら経済を成長させ、大英帝国復活ともてはやされた。しかし、ポンドは金融危機前のピークから対円で約半分にまで急落してしまった。
韓国が志向しているのは言うまでもなく貿易立国である。近年、急速に輸出を伸ばしてきたが、一方で資本財の輸入も増え、貿易黒字はわずかである。そんななかでリーマンショックに襲われ、ウォンが暴落している。資本財の輸入の大半は日本からのものであるが、円高でコスト高になったため、ウォン安で価格競争力が高まったといえども、輸出で稼ぐことができない。韓国は国際通貨基金(IMF)の支援を受けたことがあるが、再び支援が必要となるところまで落ち込む可能性があると本書では分析している。
この他、ロシア、ドイツ、スペイン、中国、米国についても論じている。今日の世界の経済情勢を理解するにはよい本である。また、データもよく整理されていて納得させられる。