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玉生弘昌(元会長)の読書

分析力を武器とする企業 (トーマス・H・ダベンポートなど、日経BP社)

 市場において何らかの有意な違いにいち早く気付いて、そこを突くと、売り上げを増やせたり、シェアを伸ばせたり、競争優位に立てたりする。他社がまだ気付いていない効果的な施策を展開すれば武器となるのは当然のことである。

 最近の独SAPなどのERP(統合基幹業務ソフト)やSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)のパッケージには分析モジュールがついている。それらを使えば様々な分析が可能である。しかし、多くの企業でそれらのモジュールを使いこなせず、宝の持ち腐れになっている。これらをうまく使いたいと思っている人は多いことだろう。

 本書には、多くの企業の成功事例が紹介されている。英スーパー大手のテスコは購買履歴からより効果的なクーポン発行方法を考え出し、他社より一桁も違うクーポン利用率を実現した。その結果一時の低迷を脱し、大幅な増益を達成した。米ホテルチェーン大手のマリオットは、需要に応じて価格を変動させることで、部屋の稼働率をあげることに成功した。米ウォルマート・ストアーズはサプライヤーに情報を開示することで、効率的な調達を実現した。これらを含めて、多数の企業名が挙げられている。

  賢明な読者であれば、これらのケーススタディーから読みとることができるかもしれないが、本書にはどのように分析を進めるべきなのかの解説が少ない。統計学的な手法は列挙されているものの、やはり読者としては実際の適用方法が知りたいところである。

 そして、第5章に「調査会社ヤンキーグループの報告書によれば『価格管理・利益最適化に組織的に取り組めば、最大20%の収益改善が期待できる。こうした取り組みは、売上高純利益のどちらにも効果がある』」と夢のような結論めいたことが唐突に書いてある。その出典は巻末の15ページにも及ぶ注釈の中にあるが、ヤンキーグループの宣伝用の小冊子からただもってきたのではないかと疑われる。

 しかし、本書のよいところは、分析結果を活かし競争優位に立つためには、組織の改革が必要であると随所に書いている点である。

 分析によって、何らかの有効な発見があっても、それが革新に満ちたものであればあるほど、組織に受け容れられないことが多い。分析を活用していくための組織上の要点として、トップの理解、分析を尊重する経営風土などを提唱している。また、分析要員の増員も必要としている。

 発見や気付きは、個人の資質によることが大きいため、たくさんの人が分析に関わった方がいいのだろう。要員の増員はトップの認識と決断によるものであるから、分析要員を増やした企業は「分析力を武器」とすることができるようになるはずである。

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