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玉生弘昌(名誉会長)の読書

悪魔のサイクル-ネオリベラリズム循環 (内橋克人著、文藝春秋)

 この本の著者である内橋克人と言えば以前は「匠の時代」を書いたミクロ的経済レポートをする経済ジャーナリストとの印象が強かった。しかし、今日では確信を持って主張するエコノミストだと見直されている。本書では、シカゴ学派を源とするネオリベラリズム(新自由主義)が台頭し、彼らの経済政策が様々な弊害をもたらしたことを実証的に指摘している。

 ネオリベラリズムの代表格のノーベル賞受賞経済学者ミルトン・フリードマンがレーガン大統領のもとで、金融を初めとする様々な規制緩和をし、ケインズ学派ができなかったインフレ退治に成功した。当時、アメリカのマネタリストが「ケインズは死んだ」と豪語していたことを思い出させる。これ以降、権力の中枢に昇り、各種の新自由主義政策を展開し、その結果、アメリカにおいて大きな社会格差をもたらしたと著者は論ずる。

 一方、中南米においてはフリードマンの弟子筋の“シカゴ・ボーイズ”と呼ばれるエコノミスト達がチリやアルゼンチンなどの経済政策を指導し、資本の自由化をはじめ、各種の規制撤廃や国営事業の民営化を実施した。その結果何が起こったかといえばアメリカを中心とする外国資本の流入を招き、一時的な景気高揚はあったもののバブルが生じ、やがてはじけた。

 この過程でヘッジファンドなどによって国内資産が買い叩かれ、多くの国富が海外に流出した。これによって国内産業が荒廃し、そして外国資本による支配の比率が一挙に高まるのである。

 内橋氏はこれを悪魔のサイクルと指摘しているが、新潟大学の佐野誠教授は「ネオリベラリズム循環」と呼んでいる。

 かつて、キリスト教宣教師が先兵となって植民地主義がアジアを席巻したように、“シカゴ・ボーイズ”が先兵となり、ヘッジファンドが新帝国主義を展開しているような図式である。日本もこのサイクルの渦中にあると、氏は警告を発している。

 雇用の自由化は労働者に自由をもたらすかの様に聞こえていたが、実は雇用者を優位にし大きな所得格差をもたらした。金融の自由化は目ざとく貪欲なヘッジファンドを呼び寄せる結果となった。ヘッジファンドというほんの一握りの非情でしかも貪欲な人間に、とてつもなく金持ちになる素晴らしい機会を与えるという意味でも規制緩和は働くのだ。

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