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玉生弘昌(名誉会長)の読書

強欲資本主義 ウォール街の自爆 (神谷秀樹著、文芸春秋)

 サブプライムローンを発端に、リーマン・ブラザーズ証券の破綻、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)への公的資金注入と世界経済に立て続けに衝撃が走った。これから数年間、大きな混乱が続くのは間違いのないところだ。

 本書では、これらの問題が金融ビッグバンから始まったと論じている。ビックバンによって、規制が緩和され、投資銀行と商業銀行からさらには保険業まで垣根が外された。これ以降、銀行は顧客のための銀行ではなくなり、自らが相場師になってしまったと指摘する。

 顧客から得た情報で自らの資金で投資を行うと、利益相反になる。それを防ぐため、「チャイナウォール」と呼ばれる銀行内の組織の壁を設けて、顧客から得たインサイダー情報が投資を行う部門へ流れないように規制した。しかし、実際はチャイナウォールは機能せず、顧客の利益を損なうような投資が行われ、銀行の本来の機能の信頼が損なわれた。

 レーガン大統領時代の強いドル政策が、借金だらけの財政をもたらし、国民を消費と言うより浪費へと導いた。1999年に国民の有利子負債は有利子資産を上回り、借金で消費するという構造が定着してしまった。今後は借り入れの道も細り、ドルも弱くなるため、消費王国は終焉を迎えるだろう。

 そして、モラルが崩壊し、なんでもありの金融知識を駆使する強欲な人たちが現れ、経済全体を蝕むようになる。次々と会社を買い取り、強引にコストカットをして見せかけのキャッシュフローを増やし、高く売り抜ける。会社はどうなってもいい、金さえ積めば勝利であるという、まさに強欲の塊のような手練手管が駆使される。

 著者の神谷氏はアメリカで投資銀行を経営しており、ウォール街で実際に起こった様々な事例に詳しい。ウォール街がすべての産業を壊しているのではないかと懸念する。またアメリカ最大級の製造業であるゼネラル・モーターズ(GM)のリチャード・ワゴナー会長が「企業としての至上命題は株主への利益還元」と述べていることに疑念を呈している。

 アメリカの金融業界は政府と結託しているという見方もあるという。ベアー・スターンズの不良債権に連邦準備制度が融資することに決まったが、最後のツケは政府がまかなう。政府高官が金融機関に迎えられることも多いが、逆に金融機関のトップが政府高官になることも多い。政府高官になると、民間との利益相反を防ぐため、持ち株を売却しなければならないのだが、売却利益には税金がかからないという。税金を払いたくなくて政府高官になる人もいるのだそうだ。

 最後に、金融経済が実体経済を傷つけてしまい、必ず大きな景気停滞がやってくるが、日本もアメリカもいったん縮小均衡をし出直すしかないのではないかと結論づけている。

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