岡田卓也の十章―イオンの基本 (商業界)
本書が書店に積んであることには気付いていたが、少々薄いし、活字は大きく、行間も広い。つまり文字数が少ないような気がして、購入しなかった本である。ところが発行者の結城義晴氏から贈呈いただいたので、いま手元にある。
冒頭に「本書は、商業界のゼミナールでの講演をもとに構成」と書いてある。変わった本で著者名が明記されていないが、商業界の前社長である結城氏(現商人舎社長)が執筆したものに違いない。
商業界は雑誌「商業界」や「販売革新」などの出版社であるが、小売業経営者の研鑽の場としてのゼミナールや視察研修などを数多く企画運営している。毎年開催している「商業界ゼミナール」は大手小売業の有名経営者が100人以上も参加する小売業界屈指のイベントとなっている。
そうした場で、イオン名誉会長の岡田卓也氏が語った内容を要約したのが本書である。岡田氏のまさに「商人らしい商人」の姿が見えてくる。
流通革命をもたらした第一人者はダイエーの創業者中内功氏であるが、残念ながら企業の建て直しに追い込まれてしまった。そごうの水島廣雄氏やヤオハンの和田一夫氏など大きな挫折に遭った小売業経営者は多い。いずれも、バブル時に過大な投資や本業を外れるような事業拡大を繰り返し、多大な損失を被ったものである。
このような小売業の栄枯盛衰のなか、イオンは着実に小売業の中心に上りつめた。イオンの前身である岡田屋は明治初期に「見競(みくらべ)勘定」と呼ぶ貸借対照表を用いていたということだが、これによって堅実な経営に徹していたことで、今日の地位を築いたことが分かる。
岡田屋の家訓として有名なものは「大黒柱に車をつけろ」であるが、これはお客様の便利な立地を常に求め、柔軟に店舗を展開することとして実行されてきた。四日市に最初の店舗を開いて以来、次々と三重県に出店し成功を収めるが、当初の店は今日ほとんど残っていないということである。
日本の経済界は製造業重視の意識がいまだに強いと岡田氏は指摘している。商工会議所、経団連、税制調査会などにおける小売業の占める部分は低いのは確かであり、生活者重視にシフトしなければならないと言われながらも、相変わらず日本の財界は重厚長大型の構造のようだ。
小売業の地位向上を目指しても、「浮利に走る」経営者ばかりであると、財界の中でも評価されない。本書で説いているような、しっかりとした商人哲学を持った経営者の活躍が必要だろう。