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玉生弘昌(元会長)の読書

日本文明、世界最強の秘密 (増田悦佐著、PHP研究所)

 日本人は日本論が好きである。日本論に関する書籍は、いまや古典となったイザヤ・ベンダサンの「日本人とユダヤ人」や石原慎太郎と盛田昭夫の「NOと言える日本」をはじめ、無数に出版されている。バブル崩壊後の「失われた10年」以降は“終末論”が増え、一方で日本はまだまだ大丈夫だという論調の本も多い。本書は“大丈夫論”に属するが、その論旨がユニークである。

 GDP当たりのエネルギー消費が諸外国に比べて群を抜いて少ないことが日本の優位性であるが、それは都市の効率性にあり、そのもとは鉄道網の発達にあると論じている。日本の都市における移動手段の大部分は鉄道であるが、通勤労働者の大半が自動車通勤をしている欧米の都市に比べて、日本の鉄道通勤労働者のエネルギー消費ははるかに少ない。

 日本では、都市集中度をまだ高めることが可能であり、さらに生産性を高める余地がある。自動車通勤の多い欧米の都市は拡大ができない。駐車場の拡張と道路建設は限界がきているからだ。

 第4章以降は鉄道マニアのような詳しい記述が続く。欧米のターミナル駅はモニュメント化し、大衆からは離れてしまっている。それに対して、日本のそれは大衆的で極めて利便性が高い。日本の鉄道は“線”ではなく“網”へと発達し、しかも正確に運行されていることが大衆から支持されている。

 もともと地方労働者よりも都市労働者の方が生産性が高い。なぜなら、経済の高度化とともに分業化が起こり、分業化が都市を生み出したわけだから、本来的に都市の方が生産性が高いのだ。日本の駅周辺の商業施設の単位当りの売り上げが突出していることがその証左である。

 日本は、田中角栄の列島改造論の1970年代から地方への投資を増やし、生産性の低下を招いた。「国土の均衡ある発展」という美名のもと、工場等制限法、大規模店舗法などによって、最も生産性が高い地域への投資を規制してしまった。非常に利用率の低い過疎地の道路、橋、公民館、ダムなどへ巨大な資金を投じてきた。

 ようやく小泉総理になって、地方への投資を減らし始めた。これで日本列島の生産性を向上させる本来の投資構造に少し立ち戻ったようだ。これからはさらに、東京圏など都市部に集中するような交通網の充実を更に進め、日本経済の優位性を向上させるべきと主張している。

 他の論者への挑戦的な表現が少々気になるが、現在の為政者に読んでもらいたい有意な主張である。

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