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会長の読書

大変化 (伊藤元重著、講談社)

 この二十数年ほど伊藤元重氏の本は読んでいなかった。今回、久しぶりに本書を手に取り、以前読んだ本とはだいぶ違う印象を受けた。まず、前半部分で「私はこう思う」「私は考える」というフレーズがたくさん出てくる。オピニオンリーダーはこうでなくてはいけない。

 まず、日本経済の回復についての分析では、外需、財政赤字、超低金利の3つのアクセルでようやく成長していると述べている。たしかに、継続する保証はないし、逆に継続すると問題が生じるものもある。これから人口が減り高齢化社会になるわけだが、経済の成長とは何なのかを問いかけている。

 アジアの成長とかつてのソ連の急成長は資本と労働力の増加が主たる要因であり、欧米と日本の成長は技術革新と生産性向上であるというノーベル賞受賞学者ロバート・ソローなどの説を紹介し、人口減少があっても技術革新を継続できれば日本経済は成長可能と論じている。

 そして、日本は、「あるものを使う」ことと「海外の力を取り込む」ことが必要であるとしている。あっても活用できていないものとして、東京都の面積の1.7倍もあるという耕作放棄地、駅前の一等地にある郵便局の建物、高学歴の女性労働者、そして1500兆円もある国民の貯金などを挙げる。まだまだ、日本経済を活性化する余地がありそうだ。

 しかし、そこには現状を守ろうとする守旧派が必ずいる。伊藤氏は「日本の社会を好ましい方向に持っていこうとしても、国内だけでは難しい」と書いている。かつての小泉総理であれば「抵抗勢力」というのだろうが、穏健な伊藤氏は「海外の力を取り込む」ことで変えるのがいいとしている。「ハゲタカ」といって嫌う向きがあるが、日産にカルロス・ゴーン氏が来なければどうなったかわからない。長銀の救済のとき、日本金融機関はリスクをとろうとはしなかった。やはり、必要なときには海外の力を使うべきというわけである。

 ファーストリテイリングの柳井正社長が「儲からないことは中国にやってもらう」と言ったことを紹介している。伊藤氏も腑に落ちたと書いているが、本質を悟らせる素晴らしい表現である。

 改革のアイデアもいくつか提案している。「リバースモーゲージ」「トンチン債」などは、高齢化社会の問題解決策になる。これらがどういうものなのかは、本書を読んでもらう方がいいだろう。金融・保険業界では新サービス創出のヒントになるかもしれない。

 本書に「耕作放棄地が東京都の面積の1.7倍もある」というフレーズが実に4回も出てくる。旧態依然たる農業政策に大きな問題を感じているのだと思われる。伊藤氏には、ぜひこうした大問題に取り組んで欲しいものである。

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