戦略の本質 (野中郁次郎他著、日本経済新聞社)
本書は、まえがきにある通り1984年に刊行された「失敗の本質」に続く本である。失敗の本質では日露戦争に勝った日本軍のその後の驕りが失敗につながったということがテーマの下地となっているが、本書は毛沢東の国民党政府との戦いから朝鮮戦争、ベトナム戦争など6つのケースを取り上げ、テーマとしては「逆転の本質」を追究している。
しかし、少々分かりにくい。それは、6ケースそれぞれに異なる逆転のきっかけがあり、何かひとつのキーワードでくくることが難しかったからだろう。しかし、各ケースとも踏み込んだ記述がされていて、読み応えがある。
1950年に始まった朝鮮戦争は北朝鮮軍の突然の南進から始まり、一時は釜山付近まで押し込む。それをマッカーサーの有名な作戦「仁川上陸」でソウルを奪還するが、中国軍の参戦で再び占領され、さらに2ヵ月後に再奪還と激しい戦闘が行われた。その後、両軍は38度線付近で対峙し、休戦協定がおこなわれ、今日その停戦ラインが両国の国境となっている。
第四次中東戦争(1973)は、六日戦争と言われた第三次中東戦争でシナイ半島をイスラエルに占領され、スエズ東岸を失い、面目を深く傷つけられたエジプトのシナイ半島奪還戦争である。エジプトのナセルはイスラエルのせん滅を唱える「アラブの大義」の盟主として祭り上げられていたが、イスラエルには到底勝ち目はない。ナセルの跡を継いだサダトは非現実的な「アラブの大義」を脱し、エジプトの面目回復と戦争状態脱却を目指し、きわめて短期にスエズ東岸の占拠を果たす。即座にアメリカのキッシンジャーの仲介でイスラエルとの平和条約締結をする。しかし、この賢明な指導者であったサダトはアラブ原理主義者によって殺されてしまう。
ベトナム戦争は20年にもわたる長い戦争であった。小国北ベトナムにアメリカは苦戦し、結局撤退する。戦争の指導者であったマクナマラは、アジアを理解していなかったこととアメリカ国民の協力を十分得ることができなかったことなどを挙げて、「我々が間違っていたことを歴史が証明している」と述べた。
このように、本書は最近の戦争を詳述し、「戦略の本質」を浮き彫りにしようと試みたのだが、むしろ「最近の戦争の本質」を示してくれた。本書によるわずか数十年前のこれらの出来事の解説は、いわゆる平和ボケの我々に、複雑に絡み合った現代の国際状況の理解を深めてくれる。