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玉生弘昌(元会長)の読書

バイアウト ― 企業買収 (幸田真音著、文藝春秋)

 幸田真音氏は「小説ヘッジファンド」「日銀券」など時節を捉えた経済小説でヒットを連発している。同氏の最新作である本書もこの1―2年で起こった経済事件を背景に描かれている。外資系の銀行と証券会社に勤めていた経験を持ち女流作家に転身したという経歴からなのか、本書の主人公も外資系証券会社の女性社員である。

 主人公、広田美潮は外資系の証券会社「ラーンス・ブラザーズ」のやり手セールスとして、「モノ言う株主」と言われている相馬社長率いる「相馬ファンド」にアプローチを始める。美潮は「相馬ファンド」と接触するうちに、相馬が音楽プロデュース会社「ヴァーグ・ミュージック」の株買い占めを狙っていることを知る。

 実はヴァーグ社のナンバーツー三枝篤は美潮の父親。亡くなった母と離婚した父親には複雑な感情を抱いているが、闘志を燃やした美潮は父三枝に会いに行き情報を探る。その情報を元に「相馬ファンド」の信任を深めた美潮は、ヴァーグ社の株主を回りブロックトレード(市場外の相対取引)による株の買い取りを進める。

 そこに、ヴァーグ社が所有している土地に目をつけた新興の小売業「フクジン」の岡本吾一社長、新興のIT会社で偽計取引の疑いで東京地検の手入れを受ける「アクティブ・ゲート」などがからみ買収劇が白熱していく。

 バイアウト(企業買収)、TOB、ホワイトナイト、焦土作戦、クラウンジュエルなど、専門用語が次々と登場し、実際の駆け引きや手続きがどのように展開されるかよく分かる。M&Aが活発な昨今、ビジネスパーソンにとっては勉強になる一冊である。

 相馬社長は政府系金融機関から通産省に出向した経験を持ち、何でもできると考えている自信家であるが、背が低いのがコンプレックス。IT会社アクティブ・ゲートの江崎文隆は小太りで小生意気な大学生風。新興の小売業フクジンは深夜営業を得意とし、強引な出店で騒音問題などを引き起こしている。

 アクティブ・ゲートはまさにあの社名を思い浮かばせるが、登場人物の多くが実在の人物の誰であるかは容易に想像がつく。さもありなんと、読者の興味をかき立て、一気に読ませる。

 そして、買収は成功したのか?美潮と父親との関係は? それは読んでのお楽しみである。

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