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玉生弘昌(元会長)の読書

板上に咲く MUNAKATA: Beyond Van Gogh (原田 マハ著、幻冬舎)

 棟方志功の妻チヤ(千哉子)が、インタビューに答えるかたちで話が始まる。
 青森で生まれた棟方は、若い時から画家を志し、「ワぁ、ゴッホになるッ!」と言って一心不乱に画業に取り組むという一風変わった青年であった。しかも、棟方は弱視で、画家として大成するか危ぶまれていた。そんな棟方に出会ったチヤは、すっかり魅了されてしまう。二人は結婚するのであるが、目標とする帝展入選は、なかなか果たせず、貧困の中で苦労する。貧乏な生活で、チヤは志功を支え続ける。
 「ワぁ、ゴッホになるッ!」と言った棟方が、ゴッホに出会ったのは、雑誌「白樺」に掲載されていたゴッホの作品の「ひまわり」の写真である。あの燃えるような筆使いで描かれている「ひまわり」の写真を一目見て棟方は「ゴッホになる」と言ったのだから、天才は天才を知るということなのだろうか。「白樺」は武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎などが立ち上げた文藝運動の雑誌であるが、ヨーロッパの印象派の紹介もしていた。
 ある日、奇跡的な出来事が起こる。国画会に出品した棟方の作品を展示する作業をしている時に、偶然通りかかった柳宗悦、濱田庄司が、棟方の作品を見て驚き、その場で作品の買い入れを決める。その時の棟方にとって、柳と濱田は雲の上のような人である。特に、柳は「白樺」に「革命の画家ゴッホ」と言う論文を「ひまわり」の写真とともに載せたその当人である。また、この二人と河井寛次郎、富本憲吉は民藝運動を起こし、大正から昭和の日本美術界に大きな足跡を残した人たちである。
 この柳と濱田と棟方との出会いが、本書のハイライトであるが、まるで見ていたかのような書きぶりである。原田マハは、テレビのインタビューで「自分の作品の90%は創作であるが、本書は90%が事実だ」と述べている。原田マハは、棟方志功についても、前々から意識をしていて、いつか書きたい人物だったということなので、十分に考察していることだろう。また、民藝運動側の資料も十分に調査して、この場面を想像したのだと思われる。
 その出来事の後、柳宗悦と濱田庄司と河井寛次郎の三人が、棟方の家を訪ねてくる。民藝運動を進めている彼らは、日本全国を巡り歩いて日本の陶芸、漆器など日本の名品を探す活動をしている。棟方の作品も彼らにとって大発見なのであろう。そして、棟方の作品は日本民藝館の中核的な展示作品となる。この出来事以来、棟方は高く評価されるようになった。
 世界中の優れた作家の作品を集めて開催される国際美術展 1956年のヴェネチア・ビエンナーレにおいて、棟方の作品がグランプリを受賞する。こうなると、世界のムナカタである。アメリカやヨーロッパから次々と招待されるようになる。フランスに赴いたときに、憧れのゴッホの墓を棟方とチヤが詣でる。

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