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玉生弘昌(名誉会長)の読書

日本製鉄の転生 巨艦はいかにして甦ったか (上坂 欣史著、日経BP)

 2023年12月、日本製鉄はアメリカのUSスチールを2兆円で買収すると発表した。これに、USスチールの労働組合が反対し、トランプ前大統領が認めないと発言するなど、話題になっている。
 中国やインドに巨大製鉄所が建設され、日本の製鉄業は世界シェアを下げていて、衰退気味であったため、日本製鉄のUSスチールの買収提案には少々驚いている。
 その日本の製鉄業がいかにして蘇ったのか、知りたいところである。
 明治時代に、日本の製鉄は国策会社の八幡製鉄から近代的製鉄が始まったと記憶している。様々な変遷を通して、2012年に住友金属工業と新日本製鉄とが合併して、新日鉄住金となり、2019年に社名を日本製鉄とした。両社とも、業績が低迷していて、救済合併のような印象だった。
 その日本製鉄は、橋本英二氏が社長に就任してから変わり始めたということである。橋本は、このままだと日本製鉄は2年持たないと見て、思い切った改革を始めた。製鉄業の象徴である高炉の廃止を断行。社内の抵抗があったものの、これをしなければ社員を救うこともできないという思いだったということである。そして、粗鋼生産を減らし、価格の高い高級鋼材に特化することを決めた。
 そして、トヨタ自動車を始め大手の納入先企業に、値上げを求めた。値上げを受け入れないのなら納入しないとまで言ったということである。さらに、こともあろうにトヨタ自動車を提訴したのである。中国の宝山製鉄が、日本製鉄が特許を持っている電磁鋼材を製造、それを知りながらトヨタ自動車が輸入していたため、提訴したのである。なお、トヨタ自動車への訴えは後に取下げている。しかし、この提訴は、並々ならぬ決意であることを内外に印象付けた。
 これら一連の対応によって、2022年には6,300億円の黒字を計上、2年前の4,300億の赤字と比較すると実に1兆円ものV字回復をさせた。
 世界の製鉄業は粗鋼の増産が続き、それこそ粗製濫造気味で、価格の低下が続いていた。しかし、日本製鉄には技術力があり、高品質の鉄材を作る能力があった。
 自動車用の薄く軽量で強いという超張力鋼材(通称ハイテン)と磁力特性を持ちモーターや変圧器の心材として需要が拡大している電磁鋼材、油田で使われる高合金油井管と3つの高付加価値の製品を持っているため、これからも高い利益率を維持できるものと思われる。おまけに、コークスによる製鉄を水素による製鉄にし、大幅にCO2の削減に取り組んでいる。これも、大きな社会貢献につながるものと期待されている。
 「計画一流、実行二流、言い訳超一流」と言われていた企業風土を打破して、改革を果たした橋本社長の座右の銘は「事上錬磨」(実践を通じて進歩する)だそうだ。地に足が付いた改革が進み、日本の製鉄業がよみがえれば、日本の未来は明るくなるに違いない。

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