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玉生弘昌(名誉会長)の読書

ダーウィンの呪い (千葉 聡著、講談社現代新書)

 ヨーロッパの思想史は、何と言ってもキリスト教の影響が大きいのだが、実はダーウィンの影響も大きいのである。
 一般には、ダーウィンの『種の起源』は、その後の生物学の進歩を促し、近代の遺伝子研究へと発展させたと思われている。ところが、必ずそうではないというのが本書の命題である。
 ダーウィンといえば、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。唯一、生き残るのは変化できる者である」というメッセージが有名である。しかし、これはダーウィンが言ったのではなく、本書によれば、このように言ったのは経営学者レオン・C・メギンソンがダーウィンの言葉として論文に引用したものだということである。ダーウィンは変化できるとは言っていない、変化したのうち環境に適合した種が生き残ると言っているのである。
 ダーウィンの『種の起源』によると、種が変化し、その変化した種が環境に適合し生き残るのが進化だということが書かれている。つまり、様々な変化の中で、生き残ったものが次の世代となるというのが進化論である。目標があって変化するのではなく、変化したものの中から適者生存するのであり、勝ち残るのが進化であるということになる。これによって、生存競争に勝つことが重要であり、弱者を乗り越えることが必要であるとの思い込みにつながる。これが、今日の経済社会における成長神話につながっているように思われる。
 さらに、まさに呪いともいえる問題を生じさせたのである。それは、「優生学」である。「優生学」は、ダーウィンの従弟のフランシス・ゴルトンが唱えた「人類は優れた人を残し、劣った者は制限するべきだ」という考えである。ゴルトンは従兄の影響を受けているのは勿論であるが、「人口論」で有名なマルサスの影響も受けている。マルサスが唱えた、人口の増加に対して食糧の増加が追い付けずに人口の増加は限界を迎えるという「マルサスの罠」に、ゴルトンは危機を感じ、人類はより優秀な人を多く遺さなければならないと思ったのだろう。そして、ゴルトンは「優生学」を唱えたのである。まるで、人類という生物の品種改良のような論理である。
 ゴルトンは天才的な才能がある人物で、気圧に着目して天気図を作成。また、指紋による人の識別方法も考案したのである。このゴルトンは多くの人に影響を与えた。中でも、ナチスドイツのヒトラーが劣等民族であるユダヤ人を抹殺するべきという考えを抱くようになった。そして、でユダヤ人を600万人も殺したという「ホロコースト」を引き起こすことになったのである。
 ダーウィンの進化論は、あくまでも生物学の1つの説であり、それを思想や哲学のように扱うと間違いが起こるようである。

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