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玉生弘昌(名誉会長)の読書

「経済成長」の起源 (マーク・コヤマ/ジャレド・ルービン著、草思社)

 貧困がまだ存在しているとはいえ、歴史的に見ると、大半の現代人は200年前の人たちよりも裕福になっている。経済成長はどのように進んだのだろうか。本書では、これを地理、政治、宗教、人口動態、植民地というテーマごとに論じている。
 地理では、産業革命の発祥の地イギリスから産業技術が西ヨーロッパとアメリカに伝播し、イギリスの産業革命前夜に「囲い込み運動」という農業地域の改革が起こったことに触れている。この「囲い込み運動」は3つのことをもたらした。まず1つ目は、農業技術の進歩で食糧の増産が進んだこと、2つ目は、羊毛の生産性が上がったこと。3つ目は「囲い込み運動」で締め出された農民たちが都市に移り住み、産業革命の時の工場労働者となったことである。そして、産業革命が起こるのだが、まず、繊維技術の改革が始まった。紡績機と機織り機の発明があり、続いて、蒸気機関の発明で一層の生産性の向上が起こった。加えて、イギリスで蒸気機関車ができたが、蒸気船はアメリカで初めて作られた。
 政治の面では、安定している国とそうでない国とを比較して、言うまでもなく安定した国の成長が高いことを論証している。
 宗教については、カトリックとプロテスタントとムスリムにおける一人当たりのGDPをグラフにして比較している。やはりプロテスタントのGDPが高く、続いてカトリック、ムスリムとなっている。一日に何回も礼拝し、断食など戒律が多い人たちの生産性が高くないであろうとは推察できる。マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』という有名な本に、プロテスタントの勤勉さが経済発展をもたらすと記述されているので、予想される結果である。しかし、本書には仏教や神道についての言及はない。
 旧植民地は発展が遅れ貧しい国が多い。イギリスの経済学者デヴィッド・リカードの比較優位論によると、サトウキビを作るのが得意な国と自動車を作るのが得意な国とが貿易すれば、お互いにメリットがあるとされている。しかし、そうはならない。自動車をもっと多く欲しいとなると、サトウキビを増産しなければならない。だが、自動車を作っている国はさらに多くのサトウキビを欲しいわけではない。したがって、サトウキビの価格は低迷することになり、貿易赤字に陥ってしまう。しかし中には宗主国によって大きなプランテーションが作られて豊かになった国もある。
 最後の方に、日本についての記述がある。1800年ごろ日本の都市化は13%で、中国の3%に比べて高く、農業以外の産業が進んでいたことをうかがわせる。また、国民の識字率が高いことを挙げて、日本の経済発展の背景は、そこにあると記されている。

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