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玉生弘昌(名誉会長)の読書

増税地獄 (森永 卓郎著、KADOKAWA/角川新書)

 少々個性的な経済評論家・森永卓郎は、日曜日朝の「がっちりマンデー」、あるいはニッポン放送などにもたびたび登場しているのでご存じのことと思うが、オタク文化を語ることも多く、モリタクと呼ばれて親しまれている。
 本書には、統計データがたくさんグラフ化されて掲載されているので、参考になると思い買い求めてみた。増税国家ニッポンと表して、50年前に比べて国民負担(税金と社会保障費)は24.3%だったのが、23.7%も増えて48.0%にもなっている。税金は消費税が導入されたことと東日本大震災による復興特別税などによって増加し、社会保障費は医療保険料が上がったことと介護保険が導入されたことで、国民負担は増えていると記されている。
 高齢化社会を迎えて、ますます医療と福祉にカネがかかる。また、現在の多額の財政赤字を何とかしなければならないとして、財務省は消費税の増税が必要だと唱えている。これに対して、森永氏は国債の発行で賄えばいいと論じている。むやみに国債の発行をすれば、インフレになると指摘する論者が多いが、森永氏は、日本には十分な通貨発行益があり問題はないとしている。
 この議論は、「通貨を発行できる国は財政破綻することはない」とするMMT(現代貨幣理論)で論じるのが良いと思われる。MMTはアメリカのスティファニー・ケルトンらが提示した新しい経済理論で、世界中で議論を巻き起こしている。森永氏はMMTを否定している財務省や保守的な学者を批判しているものの、森永氏自身のMMTに対する評論はない。GDPの2倍以上の赤字を抱えている日本の財政を理論付けられるのは、いまのところMMTしかないと思われるので、モリタク流の分かり易い解説を聞きたいところである。
 ところで、森永氏は本書の他に「ザイム真理教」という本を近頃出版した。ザイムとは財務省のことで、財務省が財政赤字を解消するための「財政健全化」がまるで宗教の教義のようになっていて、その教義が国民の負担を増やし、日本経済を妨げているという批判の書である。
 歴代内閣は、民主党政権の時も含めて財務省の「ご進講」によって、財務省寄りの政策に偏っていたが、第二次安倍内閣は初めて財務省と距離を置くようになった。安倍総理は、日銀総裁を交代させてまで「異次元の金融緩和」を進めた。これは財務省が反対していた政策である。
 森永氏は、アベノミクスを評価するものの、消費税増税をしたことで失敗してしまったと述べている。
 この本に、「安倍晋三回顧録」の記述「私はひそかに疑っているのですが、森友学園の国有地売却問題は、足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない」が引用されている。確認したところ、確かに「安倍晋三回顧録」に記載されている。さらに「財務省の官僚は、省益のためなら政権を倒すことも辞さない」という部分もある。安倍内閣は財務省とかなり戦っていたようだ。
 ところが、安倍総理は消費税を上げた。これは、財務省寄りの麻生太郎副総裁、谷垣前総裁の意向に沿ったものであろうが、改ざんがあったという森友問題で立場が弱くなったためと考えられるということである。

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