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玉生弘昌(名誉会長)の読書

バカと無知 ―人間、この不都合な生きもの― (橘玲著、新潮新書)

 この本が、本屋に山積みになっていた。かなり売れているようである。
 手にとってみたら、「ベンツに乗ると一時停止しなくなるのはなぜ?」というページが目についた。街で堂々と駐車違反をしている車はベンツが多いような気がしていたので、読んでみた。アメリカにおける調査によると、高級車ほど一時停止をしないということである。思うに、ベンツに乗ると、自分が偉くなったように思ってしまうようだ。本書には、お金持ちほど、税務申告で医療費控除の対象にならないようなマッサージ代や栄養剤の費用などを書き込むということである。税務署で否認されたら書き直せばいい、罰則はないのだから、という意識を持っている人が多いということである。
 心理学者のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーによる研究結果「バカの問題は、自分がバカであることに気づかないことだ。なぜならバカだから」という「ダニング=クルーガー効果」を紹介している。「知っていることを知っている」、「知らないことを知っている」、「知らないことを知らない」と知には3つパターンがあるということであるが、「何を知らないかが分かる子供は伸びる」が、「何が分からないかが分からない子供はそこで、挫折する」ということだそうだ。なかなか面白い。
 先生に期待されている生徒は伸びることが多いという「ピグマリオン効果」について述べている。ジョージ・バーナード・ショーの「マイ・フェア・レディ」の元の題名は「ピグマリオン」だそうである。オードリー・ヘプバーン演じる下町なまりが強い花売り娘に大学教授が上流社会の言葉を教え、その花売り娘が教授の期待に応えてレディに変身するという映画あるいはミュージカル「マイ・フェア・レディ」を観たことがあると思う。教授の期待を花売り娘が実現するというのは、まさに「ピグマリオン効果」である。期待や思いが実現するのは、よくある話である。老人に関して偏見を持っていると、自分が老人になった時に、その偏見が自分の身に実現してしまうことも多いそうである。これから老人になる人は、ぜひ気を付けてもらいたいものである。
 ヒトは内集団を形成し、その仲間内には外集団に対するよりも親切に接する。それが社会的な動物であるヒトの習性である。家庭や地域、学校や会社、国家や民族など共同体からもたらされる安心感や温かさは、共同体のメンバーでない者を排除することから生じる。そこに争いが生じることがあるが、それは必ず隣接する集団との間で生じる。人類は、集団を形成することで生き延びてきたのだが、その集団が多くの争いを生み出している。まさに、「人間、この不都合な生きもの」である。
 この他、たくさんの考察が数多く記述されていて、全部を紹介しきれない。興味のある方は、お買い上げになって、お読みください。

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