格差の起源 (オデッド・ガロ―著、NHK出版)
人類が地球上に誕生してから20万年、6~9万年前にアフリカから世界各地に移動し、拡散した。食糧確保ために一日中動き回らないとならなかった人類は、次第に定住するようになり、植物の栽培と動物の飼育がおこなわれるようになった。そして、食糧の備蓄が始まった。そのころから、地域格差が始まったものと思われる。
著者は、肥沃な三角地帯(チグリス川、ユーフラテス川、ナイル川などの流域)において農業革命が起こり集落ができ、都市化も進んだ。古くは9000年前、エジプトなどは5000年前に都市化があったとしている。日本についての言及はないが、ちなみに、日本でも1万5千年前から始まった縄文時代に定住がはじまっている。
日本については、古い文学作品として源氏物語(11世紀)が唯一挙げられているが、それよりも古い万葉集(8世紀)を挙げてほしいものである。万葉集はアラビアンナイト(9世紀)よりも古い。
食料が豊富になると、人口の増加がおこる。しかし、トマス・ロバート・マルサスによると、人口が増えると食糧不足がおこり、いずれ人口減少が始まると言う、いわゆる「マルサスの罠」にはまる。実際に、イースター島に人類が住み始めて、作物の栽培がおこなわれ、人口が増えたものの争いが起こり、人口が減ってしまったことを取り上げている。マルサスが著した「人口論」は、その後の思想家や経済学者に多大な影響を与えている。
しかし、産業革命のころから、「マルサスの罠」は消滅するようになった。それは、蒸気機関の発明など工業の生産性向上もあるが、それ以上に上下水道などの衛生環境の整備と医療の進歩によって、寿命が延び人口が増えたものと著者は見ている。
言語についての記述が面白い。北極圏の先住民には、異なる種類の雪を表すおびただしい言葉があるという(モンゴルでは馬の毛色を表す言葉が30通り以上もある)。また、日差しを多く浴びる地方では緑と青をひとまとめにする傾向が強いということである(日本でも緑を青ということが多い)。さらに、南ヨーロッパの農耕が発達して男女の役割が分業している地域では、文法に性の区別がある(フランス語には男性名詞と女性名詞がありそれぞれで冠詞も違う)。栄養が行き届いている地域では未来志向が強く未来を表現する語彙が多いということである。
本書を読み込んでも、表題の「格差の起源」らしき文言が出てこない。それもそのはず、本書の原題は「The Journey of Humanity(人類の旅)」で、人類の壮大な歴史の中での進歩が民族によって地域によって、文化的な違いが生じていることを述べている本なのである。
あえて、「格差の起源」を読み解くと、それは技術の継承であり、そのための識字力を上げる教育が人口の増加と繁栄をもたらすと著者は認識しているものと思われる。