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玉生弘昌(名誉会長)の読書

アマテラスの暗号 (伊勢谷武著、廣済堂出版)

 旧約聖書には、アダムとイヴの失楽園、ノアの箱舟、モーゼの十戒などの逸話が記されている。ノアの箱舟のような大洪水の伝承は世界各地に残っていて、約1万年前の最後の氷河期が終わる時に地球規模で起こった大洪水の記憶であると考えられている。つまり、旧約聖書には太古の時代の人類の記憶が記述されているということである。そして、旧約聖書はユダヤ教、キリスト教さらにはイスラム教の経典になっている。
 旧約聖書の出エジプト記には、モーゼがユダヤ人を引き連れてエジプトを脱出(紀元前13世紀)し、約束の地カナンに赴き国を築いたことが記載されている。ソロモン王などによって一時繁栄するのだが、これも異民族に滅ぼされ、ユダヤ民族の12支族のうち10支族が各地に散り、行方が分からなくなる。その支族の一部が中国にまで至り集落を作っていることが確認されている。さらに、日本にも渡来し、多くの痕跡を残しているというのが、本書の命題である。
 諏訪大社に残された「ミサクチ」という祭事では、アブラハムが神の命によって息子イサクを生贄にささげようとした時に、天使が現れて止めるという旧約聖書の記述通りのことが演じられている。旧約聖書ではその場所はモリヤ山となっているが、なんと諏訪大社の北側の山は守屋山! その祭りの名は「ミ・イサク・チ」! これだけ共通する事柄があると、つながりがあるに違いないと思わざるをえない。古事記に記載されている出雲の国譲りでは、一部の集団が納得せずに諏訪に移住するのだが、その時にすでに諏訪には神社があり、宮司(後の神長官守矢氏)がいたというので、古事記以前の時代にユダヤ支族が来ていたのではないかと考えられるわけである。
本書はミステリー仕立てになっている。主人公の賢司の父親(籠神社の宮司)がニューヨークで殺されることから話が始まる。籠神社は天橋立にある眞名井神社の奥社、元伊勢と言われていて、現在の伊勢神宮はここから移転したと伝えられている。賢司は、なぞ解きのために、各地を訪ね多くのことに出会い、最後は伊勢神宮で神宝の八咫鏡の謎に迫る。
著者は非常に多くの地を訪ねて取材をしている。シルクロードのキルギスにヤマトという地名があるということだが、書きぶりから見て、この地も訪ねているようだ。
一方で、「アメリカが押しつけた民主主義とはそんなに優れたものなのか」、「理性を信じ切った人間の浅はかな驕り」などアメリカ流の合理主義に批判的な記述もあり、ゴールドマンサックスのトレーダーであった著者・伊勢谷武氏の思いにも共感できる。
 伊勢谷武氏は投資関連の会社の現役の経営者で、本書が初めての執筆だという。初めてでこれだけのものを書き上げるとは驚嘆するしかない。

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